私とアヤナミ参謀と



「あ。」


つい出てしまったつぶやきはもう引っ込めることはできない。
気付かない風を装えるのであればそうしたかったのに、立った一言で全てが台無しになった。
しかも立ち止まってしまったため、更に退散し難くなる。と思ったら紫の瞳と目があってしまったではないか。
リビドザイルの艦内の中、妙に声が響いて消えた。

今更どこかへ行くのも不自然かと思い、とりあえず「お疲れ様です」と声をかければ通路に私の声が響いた。


「また散策か?」

「いや…まぁ…」


言えない。迷っただなんて言えない。
こともあろうにアヤナミ参謀になんて特に。

しかもアヤナミ参謀と会うのは『私は、貴方に嫉妬しているようです。困った事に。』と
急な発言を私がしてしまってから数日振りである。

同じ艦内にいるというのに数日も会わないなんて、余程アヤナミ参謀は長官室に閉じこもっているのだろうか。
引きこもりか。
引きこもりなのか。

しかしあの発言をした後なので気まずさ100%。
ただでさえ何を話したらしいのかわからない人なのに。

私は『では…』と足を動かすべきなのか迷いに迷った挙句、通路の脇に立ち止まって小窓から外を眺めているアヤナミ参謀の隣に並んで立った。

うん、自分でもどうしてこんなコトしてるのかなんてわからない。
もしかしたらアヤナミ参謀ともう少しおしゃべりしてみたいのかもしれないし、ヒュウガの軍での事とか聞きたいのかもしれないし。

自問するが答えは出てない上に、一緒に外を眺めるばかりだ。
何だコレ。


「……一つ。聞きたいことがある。」

「な、なんでしょうか?」


まさかアヤナミ参謀から話しかけられるとは思っていなかった私は、小さく肩を揺らしてそちらに顔を向けた。
見上げたら首が痛い。
ブラックホークはクロユリくんを除いて首に優しくない男ばっかりだ。


「先日、私に対して嫉妬していると言ったな。」

「あ、はは……すみません、言いましたね…」

「私のどこをどう見て嫉妬していると?」


アヤナミ参謀は窓から外を見てばかりだと思っていたが、不意に向けた窓越しに視線が交わった。


「その…まぁ、ヒュウガとしゃべらなくても意思の疎通が取れてるのってすごいなぁっていいますか、ちょっぴり羨ましいといいますか…。」

「名前嬢も取れているだろう。」

「どうでしょう。」


昔と変わらないところは確かにわからないこともない。
ただあの笑顔の裏とか、言葉の節々とか、大人になって読み取れないことが増えたような気がする。
それはヒュウガが隠すのが上手いのか、それともあまりにも会っていなかったせいで私がわからなくなったのか。
どちらもそうなのかもしれないけれど、やっぱり少し悔しい。


「コナツに嫉妬するならまだしも、私に嫉妬しても無意味だと思うがな。」

「へ?コナツくんですか?」


私は確かにあの時アヤナミ参謀とヒュウガの意思の疎通が取れた仲に嫉妬してしまったのだ。
それは変えられようのない事実なのだが、アヤナミ参謀はそうじゃないと言っている。
しかも相手はコナツくんときた。


「コナツはあいつのべグライターだ。あいつらの仲を見ていればわかるだろう。」

「まぁ…仲はいいですよね。」


2人が出会った経緯とかは全く知らないけど。
今晩にでもヒュウガに聞いてみようか。


「コナツの反応を面白がってヒュウガもわざと馬鹿をするからな。」


あはは、想像できるや。
何だあいつは。
可愛い子ほど苛めたいっていう小学生か。


「その馬鹿を名前嬢が少しでも抑えてくれれば助かるのだがな。」


アヤナミ参謀はそう言うなり、すぐそこの参謀長官室のドアノブを握った。


「それと、部屋への道のりならこの通路を真っ直ぐ突っ切って、突き当たりを左。見えた階段を降りてまた左だ。」


あ、迷子なのバレてましたか。
アヤナミ参謀は引き止める間もなく、部屋へと入っていってしまった。


「私が嫉妬すべき相手はアヤナミ参謀じゃなくてコナツくんかぁ…」


んー、訳がわからん。
だけどあの人が意味もない事を言うようにも思えないし…。
まぁいいか。

考えてばかりいても答えは出ていそうにないし、答えを知っているアヤナミ参謀はもういないし。

私は教えてもらったように通路を真っ直ぐに進み始めた。
すると聞こえてきたコナツとクロユリくんの声。
別に聞き耳を立てているわけではないけど話の内容が聞こえてくる。


「大体少佐ってば書類から逃げてばかりなんですよ。」


話の内容に苦笑するばかりだ。
苦労性だなぁ、コナツくんは。


「遠征にまで溜まってた書類持ってきたコナツもある意味スゴイよね…。」


クロユリくんは若干呆れているような口調だ。
それほどコナツくんが真面目で、ヒュウガが不真面目ということなのだろうけれど。


「それくらいしないとディスクワークしてくれませんからね。」


声はどんどんと下の方から聞こえてきて近くなってくる。
恐らく、今から私が降りようとしている階段を2人は上って来ているのだ。


「でもコナツって何だかんだいってヒュウガのこと好きでしょ?ヒュウガから貰ったその刀だって大事にしてるよね??」

「…まぁ、そうですけど…」


階段を3段降りたところで下の階段からコナツくん達が見え、私は聞こえてきたその会話と共に足を止めた。


「あ、名前だー!」

「どうしたんですか?こんなところで。」


そうか…。
アヤナミ参謀が言いたかったことがようやくわかったような気がする。
首を傾げいてるコナツくんが帯刀している刀をチラリと見やり、私は口を開いた。


「コナツくん、私はキミに嫉妬してるの。」

「…は?」


END??

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