私とヒュウガと
「すみません、ホントそういうのないのでやめてください。」
事のあらましを説明すると、本気で嫌な顔をされた。
クロユリくんには大爆笑され、ハルセさんには苦笑されるし、アヤナミ参謀はコナツくんとヒュウガの仲が良いといっていたが、あれは嘘だったのだろうか。
いやしかし、ツンデレという属性がこの世に存在すると耳にしたことがあるし…。
階段の踊り場で話している私達はまるで学生のようだ。
「本当に?」
「本当です!大体少佐の事は尊敬してますけど…デスクワーク以外ですし。トイレとか散歩とか、具合が悪いとか毎度お馴染みの手を使ってサボりに行くし、いつの間にか居ないのもザラですし、何時間も戻ってこないのだって普通で、でも書類は溜まっていく一方で、いつもいつも僕が処理しないといけなくて、とにかく!どうしようもないんですよ!!」
途中から気持ちが入ったのか、すごく力説するコナツくんにひどく同情してしまった。
ヒュウガのサボり癖は一体いつ染み付いたのやら…。
しかし思い返せば学校の授業もたまにフラット居なくなっていたような気がする。
もしかしたら、あの頃からサボり魔の兆候はあったのかもしれない。
「わかった、勘違いしてゴメンね。」
ヒュウガから貰った刀を今も後生大事にしているのはやはり怪しいけど。
「やっぱりアヤナミ参謀が一番ヒュウガと仲良いのよね。馴れ馴れしくも『たん』付けだし。」
「それを言ったらクロユリ中佐も少佐から『たん』づけで呼ばれてますよね。」
「うん。」
大爆笑し切ったクロユリくんは私とコナツくんの会話に興味がなさそうで、半分眠そうにし始めていたが、話を振られたことによって反応を見せた。
「そういえば『クロたん』って呼ばれてたね…」
あだ名で呼ぶ→親しい→友人→心の友→意思の疎通もお手の物=羨ましい
私もあだ名で呼ばれたら名前たんってことに…それとももっと捻ったあだ名を……。
色々と考えてやっぱり止める。
呼ばれ慣れないせいか鳥肌が立ってしまった。
昔から呼ばれている『名前』が何より一番良い。
如何せん『たん』付けがダメだ。
ヒュウガのネーミングセンスがわからん。
しかしだ。
しかし、あだ名で呼ばれているというのが羨ましい。
「クロユリくん、私は君に嫉妬しているよ。」
「そういうのいいよ。」
***
「名前、どこ行ってたの?」
「うん、まぁ…探検、かな。」
朝も昼も夜もヒュウガは私の宛がわれた部屋に居座っていて、探検という名の迷子から帰ってきた今も例外ではなかった。
まるで自分の部屋のように寛いでいる彼はコーヒーをスプーンで一混ぜして一口嚥下する。
「迷子だったわけね。」
「否定しないでおくよ。」
疲れたとソファに腰を落ち着けると、更に疲れが押し寄せてきた。
迷子になってアヤナミ参謀とお話しして、クロユリくんには冷たくあしらわれ、それからもまた迷子になったし、リビドザイルって広い…。
外部に漏らされては困るからとリビドザイルの地図はないらしいし、頑張って地道に覚えていくしかなさそうだ。
「リードつける?」
「どんなプレイよ、それ。性癖疑うっての。」
ヒュウガの彼女になる人は大変そうだ。とか笑ってみるけれど、その彼女の枠に立候補したいのは紛れもなく私だと思い至って笑えなくなった。
「あのさヒュウガ、一つ質問。もし私にあだ名をつけるとしたら、何て呼ぶ?」
「急にどうしたの?何、アヤたんみたいにあだ名で呼んで欲しいの?」
「いやっ、断じてそういうわけではないんだけど……」
「けど?」
…けど、ちょっぴり羨ましいな…、なんて言えるわけない。
その瞬間笑われるのは目に見えている。
「そ、素朴な疑問だっただけだよ。」
「ふーん?あだ名ねぇ…。名前たん…とか?なんか違和感けど。」
「あるね、違和感。」
「でしょ?」
「鳥肌立った。」
「そこまで嫌だったの?!?!」
2人して笑った。
なんてことない。
いつもの私達が一番だ。
「私達は私達のままが一番だよね。」
「今更だよ、名前。」
「だよねー。」
彼の隣が好き。
雰囲気が好き。
声も顔も、どうしようもない性格も好き。
「そうそうヒュウガ、今度みんなでさ街に新しくできたっていうデザートバイキング食べに行こうよ!」
「みんなってアヤたんも?行くかなぁ…??」
「…浮くよね。」
「目立ちまくりだよ。」
アヤナミ参謀がカフェにいるところを2人して想像して、また笑った。
彼の笑顔が好き。
優しいところが好き。
何より、彼と笑いあえるこの瞬間が好き。
END
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