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「私はその行為に関して何の意味があるのかわからないんです…。」
次の瞬間、ヒュウガがテレビの電源を落としたせいで、聞こえていた人の笑い声が消えて静寂が訪れた。
何だか嫌な雰囲気になってしまったと、どうにか逃げられる状況を作ろうと思考を動かし始めた途端にグルリと視界が反転した。
肩をソファに押し付けられて、天井越しにヒュウガが見える。
やけに真面目な瞳だ。
この瞳を見るのはエレーナが死んだ日以来じゃないだろうか。
「あだ名たんの悪い癖だよ、それ。」
怒っているのかと思ったけれど、声色は思っていたよりも柔らかい。
表情はあくまで無だけれど。
「それって…どれですか…?」
この体制はいかがなものかと小さく身じろぎをしたけれど、ヒュウガが私の体に覆いかぶさっている上に肩を掴まれているからビクリともしなかった。
「いろいろ考える癖。あだ名たんは価値とか意味とか考えたがるけど、たまには感情のままに動いてみるのも大切なことだよ。」
「…そんなものですか?」
「ん♪行動してみたら見えてこなかったものも自ずと見えてくるから。そこに後悔があったとしても、この判断は間違ってたんだって学ぶ事ができるからそれは決してマイナスじゃないよ。」
そういう考えもあるんだ…と内心驚きながらも納得する。
恋愛は難しい。
人の思考も難しい。
だけど、なんだかそれだけじゃないものがそこにはありそうな気がしてきた。
「少なくとも、オレは後悔させないよ?」
ヒュウガの唇が額に落ちてきた。
その自信が一体どこからやってくるのか教えて欲しい。
専門外だけれど、ぜひ研究してみたい。
「ど?オレとしてみる気になった?」
ヒュウガはずるい。
私に選択させてくれているようで、奪う気満々って瞳をしているじゃないか。
それ以前に、したくないって言わせない口調と笑顔だ。
先程の無表情なんてどこ吹く風状態。
考えなさ過ぎるのもダメだけれど、考えすぎるのもダメなのだろう。
でなければ疲れてしまう。
私はヒュウガの言う『いつもの癖』で考えそうになったけれど、すぐに考えるのを止めて、小さく頷いた。
「…して、みたい…かもです。」
「悪いけど、オレ、もう遠慮しないから。」
唇を寄せられたと思ったら、奪うようなキスをされた。
行き着く暇もないくらいの荒っぽい口づけに、私は次第に体の力が抜けていく。
ヒュウガにもそれが伝わっていたようで、おもむろに立ち上がるとクタリとしている私を横抱きにして抱えた。
「ヒュ、ヒュウガ?!?!」
どう見ても彼の行こうとしている先は寝室だ。
確かにさっき『してみたい』とは言ったけれど、少しばかり急すぎる展開についていけない。
すると丁度いいタイミングで給湯器がお風呂に湯を張り終わったと音楽が告げた。
「ほ、ほら、お風呂入ってませんし!してみたいとはいいましたけど心の準備はまだでして!」
「あだ名たんの心の準備が出来るまで待ってたらおじいちゃんになっちゃうよ。それに、もう3ヶ月も待ったよ?これ以上待てっていうのは酷だよ。」
「そ、そうかもですけど、」
「お風呂はどうせ後にも入るからいいの。それに先にあだ名たん入らせるといつも寝ちゃってるじゃん。」
口を尖らせていうヒュウガはどこか拗ねているようだ。
やはり我慢させていたのか、と罪悪感が生まれる。
「それとも、お風呂明るいけど一緒に入る??」
「い、いえっ、結構ですっ。」
明るいのは絶対嫌!とプルプル顔を横に振れば、ヒュウガは少しだけ可笑しそうに噴出してから私の鼻の頭にキスを落とした。
もう寝慣れてしまったヒュウガの大きなベッドに下ろされて、シーツがひんやりしていると思った時にはすでにヒュウガは私に覆いかぶさっていた。
「本当に…するんですか??」
おどおどとした私の問いに、ヒュウガは小さく微笑んだだけで額にはキスが落とされた。
それは額から瞼、瞼から頬へと降りてきて唇へと導かれるようにたどり着く。
唇で唇を食まれて、薄く唇を開けばするりと入り込んでくる熱い舌。
触れるだけのキスならまだしも、この深いキスには未だ慣れる事ができない。
ギュウと目を瞑る。
だけどそれも最初だけで、歯列をなぞられ、舌を絡ませられていく内に体の力はすっかり抜けてしまうのだ。
気持ちがいいのと、息が苦しいのとで頭の中はそれだけでめちゃくちゃになるのに、今日はそれ以上を求められている。
理解ができないとか、何の意味があるのかわからないとか、そんなことを今この状況では考えられない。
ただ、ちょっとだけの恐怖と期待がそこにはあるだけだ。
唇が離れると、ヒュウガは私の服に手をかけた。
ボタンを外して一枚一枚脱がせていく、その楽しそうな顔。
「…あの…なんでそんなに楽しそうなんですか…」
「楽しいっていうより、嬉しいの方かな♪」
「嬉しいって…」
私はただ恥ずかしいばかりだというのに、ヒュウガは本当に頬を緩めている。
全て服を剥ぎ取ったヒュウガは首筋に唇を這わせながら、胸を揉み始めた。
「っ、ん。」
「ほら、だってこうして触れてると、あだ名たんの全部がオレのものって安心できるから♪」
ちゅ、と小さく唇にキスが落とされた。
「言葉も欲しいけど、オレはこうして確認もしたい。どっちも大切なことだと思うからね♪」
「とっくに…ヒュウガのものですよ。」
エレーナが死んで、私が自由になったその日から私はとっくにヒュウガのものだ。
そう言葉にすると同時に彼を不安にさせていたことも余計に自覚した。
伝えたい。
私がどれくらいヒュウガのことを好きなのかって。
伝わるといいのに…。
「ありがと♪」
「ヒュウガも…私にくれますか?」
ヒュウガ自身をくれますか?
人はものではないけれど、私のものだって胸を張らせてくれますか?
「ん♪オレもとっくにあだ名たんのものだよ☆」
そう言って笑ったヒュウガは胸の頂を口に含んだ。
舌でそこを舐められると、空気に晒されてひやりとした。
身を小さくさせるとヒュウガの手が優しく撫でるように下へ下へと降りていく。
それと同時にヒュウガの体も下へ下へ。
腰の括れを撫で、太ももを撫で。
ふと足を開かされたかと思うと、優しく秘部を撫でられた。
「っや、」
自然と逃げ腰になったけれど、ヒュウガは大して気にもしていないようでそのままそこに舌を這わせる。
「ぁ、…っ」
正直言うと私はこういう行為に対して知識が乏しい。
ずっと恋なんてしてこなかったし、恋に恋する時期はエレーナに閉じ込められていたから恋愛というものをするチャンスすら与えられなかったのだ。
そういうものに興味を持つ時期に側にいる女性と言えばエレーナと少しの研究者くらい。
でも研究室に居る時は研究に没頭していたし、していない時は自室に居たしでまともに話すと言ったらエレーナくらいだった。
普通は同級生や友人から話を聞いたりするものなのだろうけれど、私の側にはエレーナしかいなかった。
だからだろうか、私が恋愛に対して知識が乏しいのは。
だからこの行為は普通どう始まってどう終わるのか、イマイチわからない。
いや、たまに読む小説で何となく一つの知識としては知ったけれどどれが『普通』なのかがわからないのだ。
今ヒュウガが舌を這わせているのが果たして『普通』なのか、それとも嫌がるべきなのか、わからないから私は結局それを受け入れるしかない。
ヒュウガの舌が秘部を濡らしていく内に小さく水音がし始めた。
さすがに恥ずかしくなって、恥ずかしいし汚いからだめ、と言ったけれど聞く耳は持たないようだ。
ヒュウガは秘部を舐めながら指を一本差し込んだ。
「っ、ん゛」
妙な異物感に眉を顰める。
その指が中をかき回し始めたと思ったら出し入れをされたり、するとまた指をもう一本増やされたり。
私の持つ知識が全然追いつかない。
今度は何をされるのか、とんと検討すらつかないのだ。
「ぁ、…ヒュウガ…」
「気持ちい?」
これが気持ちがいいということなのだろうか。
確かに目はとろんとしてしまうし、思考回路がまともに働いてくれない。
体の力は入らないのに、どこか硬直しているという矛盾。
奇妙な異物感や羞恥心を感じるけれど、確かに気持ちがいい。
「ん……きもち、い…」
私の言葉に気を良くしたのか、ヒュウガは小さく笑った。
いつも疲れて眠る夜は早いのに、何だか今日はゆっくり時が進んでいるようだった。
恐らく今晩は長い夜になるのだろう。
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