29
ジュードの事をたくさん話した。
話したといってもそんなに彼のことを知っていたわけではないけれど。
彼がエレーナのパトロンみたいな存在で、性格がどんなだったとか、どこで知り合って最後に会ったのはどこでなのかとか、そんなこと。
言葉に出してみると意外と知らないことばかりだった。
だって私は知らなくてもよかったのだ。
私に必要なものはなんだってエレーナが用意してくれて、してほしいことはエレーナがしてくれたから。
私が知っていることなんてきっと他の人より少ない。
『ユリアさん、』
『なぁに??』
執務室から出て二人で研究室へ歩いている最中、私はふと通路の真ん中で立ち止まった。
『私の研究に、手を貸してください。』
『…。私が?』
『はい。ユリアさんの実力があればもっと効果のある解毒剤が作れると思うんです。お願いします。』
ユリアさんは頭を下げる私をしばらく黙って見つめていたけれど、『そうね』と呟いてくれた。
『私達にできることを今は精一杯頑張りましょ。』
私達にしかできないことがある。
誰かを助ける術を持っている。
ならその術や頭を使わないでいつ使うというのか。
ユリアさんは小さく微笑んでくれた。
それから2週間、ユリアさん率いるAチームと私のCチームで合同の研究を行っている。
やっぱり想像していた通り、ヒュウガとのすれ違いの生活が続く。
ヒュウガもヒュウガでジュードの捜索に骨を折っているようで、ブラックホークの皆も不規則な生活を送っているようだ。
朝、顔を合わせたと思ったら夜にはどちらかが先に眠っていて。
夜、顔を見れたと思ったらすぐに呼び出しが掛かったりして。
全く会えていないというわけではないけれど、会話という会話をしていない。
それでも私はヒュウガの自室に当たり前のように帰るし、ヒュウガもそれに対して何も言わなかった。
ベッドで眠っているヒュウガの隣に潜り込めば抱きしめられるし、朝に顔を合わせながら朝食を一緒に取れるだけでも良かった。
そう思っていたのは最初の1週間だけだったけれど。
「…寂しい……」
ポツリと零れた言葉はもう戻すことは出来なくて、ユリアさんが研究途中だというにも関わらず手を止めて顔を上げてくれた。
「彼に会えないから??まぁ、お互い仕事してる身でこの状況だものね。明日一日休んだら?」
「いえ…。頑張ります。」
「そ?じゃあ今日はもう帰りなさいな。睡眠不足でしょ??それにシけた顔されると私まで気が滅入っちゃうわ。」
言葉こそキツイけれど、ユリアさんはウインクを一つして私に帰るように催促する。
申し訳なかったけれど、ここ最近まともに眠れていなくて体力も限界だったので、お言葉に甘えて研究所を後にした。
ゆったりゆったりと自室…というかヒュウガの部屋へと歩く。
窓の外は暗く、星が瞬いている。
ふと時計に目をやると、時刻は1時を差そうとしていた。
研究をしていたら日にちの感覚も時間の感覚もないから困る。
合鍵を使って部屋に入ると、電気は消されておりそのままシャワー室へと足を運ぶ。
明日の朝入ればいいか、というのはあまり好きではない。
一日の疲れや汚れはその日のうちに流したいのだ。
少し熱めのシャワーを浴びて、浴室を出る。
洗面所の鏡に映る私の目の下にはみごとに隈ができていた。
「…寝よう。」
ドライヤーを使うと寝室で寝ているであろうヒュウガを起こしてしまうかもしれないと思い、しっかりと髪を拭いて寝室へと入った。
静かな部屋に寝息が一つ。
聞きなれたその寝息を聞いただけで帰ってきたとホッとできる。
顔を合わせたのは3日ぶりくらいだ。
ヒュウガの遠征が重なったりして、たった3日といわれればそれまでだが、私にはとても長かったように思えて仕方がない。
ポロリ、と涙が零れた。
自分に余裕がない。
心に余裕がない。
なのに今ヒュウガに会えたことによってずっと張っていた虚勢が解かれた。
ヒュウガの顔を見ただけでホッとしたのに、今はもう彼に触れたくて仕方がない。
立ったままそっと彼の頬に手を伸ばすと、その手をヒュウガに掴まれた。
「なんで泣いてるの?」
ヒュウガは私が帰ってくるといつも起きるという訳ではないけれど、今日に限って起きた様だ。
握られている手がひどく温かい。
「ヒュウガに、会えて…嬉しかったから、です。」
触れた場所から温もりを感じで気持ちはホッとしているのに涙はおさまってくれない。
私は勢いよく横になっているヒュウガに飛びついた。
ギュウッと瞳を閉じて思い切りヒュウガの抱きつく。
その様はまるで迷子になっていた子供が親を見つけて抱きついているように必死だった。
そんな私の髪をヒュウガはそっと撫でてくれる。
「ヒュウガぁ…」
日々、いっぱいいっぱいだった。
ジュードのこととか、アリスのこととか、研究のこととか考えないといけないことはたくさんあって。
またアリスで人が死んだのだと思えば悲しくなった。
そのたびにヒュウガに会いたいって思って。
でも側にいなくて。
「寂しかったです…」
「ん、オレも。」
ヒュウガは眠気が飛んでいってしまったようで、寝起き特有の低い声ではなく、いつもの声色だった。
ヒュウガの腕が腰に回ってきて、上を向かされると同時にヒュウガが私に覆いかぶさった。
そして涙でグシャグシャの頬に手が添えられて、目尻にキスが落とされる。
「隈できてる。」
「うぅーあんまり見ないでください…」
そう言うと、ヒュウガはそこにキスを落として、ゆっくりと下りてゆき、そっと唇に触れた。
触れるだけじゃ何だか物足りなくて、キスの最中に口を開いて自ら舌を絡めると、ヒュウガは少しだけ荒っぽく舌を絡め返した。
何度も何度もキスをくり返しながら、ヒュウガは私の服を脱がせていく。
ひやり、と夜の空気が肌を刺激して、私は温もりを求めるようにヒュウガの背中に腕を回した。
それでも何だか温もりが足りなくて、ヒュウガの服を微かに震える手で、手探りで脱がせていく。
それに気付いたのか、ピタリとキスが止んで、そっと唇が離れた。
「積極的だね。」
意地悪く唇を吊り上げるヒュウガに私は急に恥ずかしくなって、服を脱がせる手を止めた。
「続けていいよ?」
「や、やっぱりいいです。」
顔を真っ赤にさせてそこから手を離そうとすると、ヒュウガの手が私の手を掴んだ。
「ほら、」
先を促すような言葉に私は言い返す事ができなくて、もう一度服を脱がし始めた。
日付も変わっている時刻なのに、一体私は何をしているんだろうかと頭が理性を取り戻していこうとしている。
なのにヒュウガは私の胸を揉み始めて、そんなことを考えている場合ではなくなった。
「あ、あのっ、待って、くださ、ッん」
胸の突起を摘まれて甘い声が上がった。
「これじゃ服、脱がせられないです。」
快感を与えられては手が震えるし意識はそっちに向くしで脱がせられるはずがない。
なのにヒュウガは私の言葉には耳も貸さずに愛撫を続けていく。
突起を口で咥えられて舌で転がされる。
かと思ったら早急に秘部にヒュウガの指が這った。
ビクンと体が跳ねて、服を脱がせることも忘れてギュッと肩口を握った。
つぷ、と指が中に入ってくる。
さっきまで頬を撫でてくれていたあの長い指が今私の中に入っているんだと思った途端、自然と中が締まった。
1本から2本へと指が増やされて緩急つけて出し入れされると、久しぶりの感覚だというにも関わらず、前の情事のことが頭の中を過ぎって次は何をされるのかを思い出す。
「あだ名たん、いつもより濡れてる。」
指が抜かれてヒュウガは服を脱ぐと、私の両太ももを広げた。
更に露になったそこにはまだ入れずに擦り付けられる。
じっれたい動きにピクリ、ピクリと腰や体が動く。
そうだ、これが私の中に入るんだ。
指2本なんかより大きくて、もっと痛かった。
圧迫感がひどくて、でも嫌なんかじゃなくて、
「あだ名たん、さっきから何考えてるの?」
「え?っぁあ!!ッッッ、ぁ…」
疑問を投げてきたのにも関わらず、私の返答を待たずしてヒュウガは中に自身を押し込んできた。
前よりは全然痛くない。
そのせいか快楽だけが襲ってきて、入れられただけで小さく達してしまった。
「もうイったの?あだ名たん、ちょっと荒っぽくされるのが好き?」
喉の奥で笑うヒュウガに「意地悪です」と返すと、ヒュウガは「知らなかったの?」とおどけて笑った。
「ごめんねあだ名たん、オレも久しぶりで余裕ないんだ。」
まだ達した後の余韻が残っているのに、ヒュウガは早急に腰を動かし始めた。
「っ、ぁっ、ア、ぁ、んっ、んっ、ぁ」
快楽に震える指先を必死にヒュウガの背中へと回し、しがみつく。
ようやくヒュウガの素肌に触れる事ができて、それだけで満足な気持ちになったけれど、最初から律動を早めているヒュウガはまだ足りないようだ。
本当に余裕がないように見える。
それほどヒュウガも私に触れたかったということなのだろうか。
自分に都合のいい解釈だと思われるかもしれない、でも、そうだったらいいなと心から思った。
さっき、何を考えているのかと聞かれて答えられなかったけれど、もし私が『ヒュウガとの前の情事のこと』って言ったら、彼は一体どんな顔をしただろうか。
驚いたような顔をしただろうか。
それとも意地悪く笑って『あだ名たんのえっち』とおどけただろうか。
「また、何か考えてる。オレに集中して。っ、オレだけ見て。」
「っ、ぁあ、ぁ、見て、ますっ。ヒュ、ウガのことっ、っぁ、考えてた、っです。」
揺さぶられるたびに中が締まっていっているようで、ヒュウガは余裕がなさそうに眉を顰めた。
「あだ名たん、好きだよ。好き、愛してる。」
「わたし、もっ、あっ、愛して、ますっ、あぁっ、ぁ、ぁ、ッッぁあっ!!」
私が絶頂に達すと、ヒュウガは私の肩に顔を埋めて数回腰を打ちつけた後、欲を外に吐き出した。
「っ、」
耳元で微かに聞こえたヒュウガの達する時の低く呻く声。
それからそっと髪を撫でられながら、私は疲れと睡眠不足とホッとしたので、気を失うように眠りについた。
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