かわいいひと
朝、昼、晩、問わず暗殺者がやってくる日常。
壁に銃弾がめり込んだりナイフが刺さったり、窓ガラスを割られて部屋の中に入ってこられたり。
非日常が日常と化して来ているここ最近、名前は割れた窓ガラスを見下ろして何かを考えていた。
つい先程まで暗殺者がこの部屋にいたのだが、今はザイフォンで捕縛してヒュウガが連れて行った。
どうせ自害するのだろうが。
捕縛した暗殺者はいつもそうだった。
口を割らせようとすると、決まって舌を噛んだり、隠し持っていたあの黒いナイフで喉を切ったり胸を刺したり、誰一人として口を割らない。
あのメルモットの手先にしてはよく出来ている。
…いや、よく出来すぎている。
それは気持ちが悪いくらいに。
暗殺者共には決まって何かしらの違和感を覚えていたが、それが何なのか、ハッキリとはわからなかった。
名前と同じように割れた窓ガラスを見下ろしていると、名前は急に「決めました」とため息を吐いた。
「防弾ガラスの二重ガラスにしましょう。」
何を考えているのかと思えば、そんなことだったらしい。
「それでも割られるようでしたらいっその事コンクリートで固めましょう。」
「意外と短気だな。」
初めて知った、といえば名前はまたため息を吐いた。
「ガラスが割られるのはお金も掛かりますし、業者を呼ぶ手間も増えますし、片付けないといけないですし、もううんざりです。壁もすべてコンクリートに、」
「どこまで本気かわからなくなるからその口を閉じろ。」
「全て本気です。」
名前の目も本気だった。
「……、わかった、メルモットを殺そう。」
今まではまだ利用価値があるからと手は出していなかったが、そろそろ殺しても大した被害はない。
そうしたら名前の機嫌も良くなって、暗殺者は来ないしで安心安全、丸く収まる。
そういうと、名前はキョトンとして「アヤナミ様も案外短気なのですね。」と言った。
名前にだけは言われたくない。そう思ったが、イライラがピークに達している今の名前を敵に回すことだけは控えたかった。
今下手に口出すと毒舌が飛んでくるのは目に見えている。
「来週の短期遠征の時にでも敵に殺されたようにみせて殺すか。」
「そういえばそんな予定が入っていましたね。丁度良いのではないですか?メルモット様と合同での遠征ですから、其の手筈で十分いけます。」
名前はしっかりと頷いてから業者に電話をし始めた。
至急割れたガラスを片付けて欲しいと言っているその姿は至極本気だ。
壊れたものは仕方がないから代えればいいし、どうにでもなるから私は大して気にしていなかったが、名前は本当に嫌そうなのだ。
そういえば何故そこまで嫌がるのかと少し前に聞いたことがある。
すると名前は少し目線を逸らした後、「……だって、私の部屋でするのはイヤなんです。」と言ったのだ。
確かに窓を割られた日は風が入ってくるため私の部屋では眠らず、忘れ去られつつあった隣の名前の自室で睡眠をとる。
その際、名前の少し狭いベッドで事を起こそうとすると嫌がられるのだ。
それも本気で。
部屋の香りは名前の香り。
シーツも、枕も、全て。
そんな中で欲情しないはずがないのにだ。
思い出してきたら少し腹が立ってきた。
何もあの時、蹴らなくてもいいと思う。
前髪をぐしゃりとかき上げて、電話を切った名前を後ろから抱きしめる。
「アヤナミ様?何ですか?」
スルリと服の裾から手を差し込むと、名前の手がそれを制した。
「こんな昼間から盛らないで下さい。」
「気分なんだ、付き合え。」
「イヤですよ。まだベッドにシーツさえ敷いていないんですから。」
今日は天気が良かったので干したんですよ。という名前の耳たぶをカリッと甘く噛んでやる。
「ッ…、ひ、人の話し聞いていらっしゃいますか??」
「聞いている。なら名前の自室のベッドでするか。」
意地悪く言ってやると、名前は予想通り「絶対嫌です」と言ってきた。
「何故だ?」
「お答えするほどのことでもありません。」
「気になるな。答えないようなら無理矢理にでも名前のベッドでするか。」
耳元でそう言うと、名前は悔しそうに唇を引き結んだ後、ゆっくりと唇を開いた。
「…恥ずかしいんです。」
「恥ずかしい?今更だな。」
もう何回も肌を重ねているというのに、恥ずかしいなどどいう名前を鼻で笑いながらも可愛いと思う。
「何回もしてるだろう?」
「するのが恥ずかしいっていうのもありますけれど……。その、」
名前にしては珍しく口ごもっている。
言いたいことはハッキリいう名前がだ。
明日は槍でも降るのだろうか。
「その、何だ。」
続きを催促しながらも首筋に顔を埋める。
「自分のベッドでしたら……、一人で眠るときに……、その日の夜のことを…思い出してしまいそうで…。それが恥ずかしくて…」
どうしてやろうか。
今すぐベッドに連れて行ってひどく抱きたい気分だ。
ソファでするのは嫌がるし、床は論外。
立ったままするのもいいが思う存分やるにはやはりベッドが一番だ。
隣の名前の部屋に行く時間さえも惜しいから、私のベッドでいい。
シーツも敷いていなくていい。
そんなことをしている暇があったら一回でも二回でも多く果てたい、果てさせたい。
キスをして髪を撫でて、赤くなっている頬に唇を寄せて、白い肌や胸に舌を這わせて、それから濡れたそこに繋がって果てて、抱きしめたい。
いっそのこと監禁するのもいいかもしれない。
でもあの笑顔が曇るのは嫌だ。
だがやはり何かに繋いでおきたい。
矛盾する気持ちが複雑に入り混じる。
またそれを名前にぶつけたい。
「名前、名前…」
思っていたよりも熱っぽい声が出た。
「名前、」
柔らかい唇にそっと自分の唇を寄せれば、名前は『仕方がないですね、』とばかりに唇を重ねた。
(ほどほどに、ですよ)
- 17 -
back next
index