答え合わせ
今日は10月31日。ハロウィンである。
今日は世界一おちゃめな爺もといダンブルドアのお陰でホグワーツの生徒達は仮装をして授業に参加することを許されていた。
と言っても一部の生徒(主にスリザリン)はハロウィンに我関せずといつも通りの制服だった。
それはシェリルやドラコ、それにセオドールもそうだった訳なのだが。
「全く、騒がしいな」
「ハロウィンだから仕方ないとはいえ、流石に耳にも目にも痛いですね」
「談話室に戻る?その方が静かだと思うけど」
「品がないな、これだからグリフィンドールの奴らは!シェリル、ノットの言う通りこれは談話室に戻った方が静かに過ごせそうだ、行こう」
心底嫌気が差したと言いたげな表情で言うドラコ。
シェリルもセオドールも反対せず、むしろ喜んで談話室へと戻ることにした。
談話室へ着くなりシェリルは学生鞄から包みを2つ取り出してそれぞれに手渡した。
「ドラコ、せっかくですし、貰ってください。セオドールも」
「?お菓子か。ありがたく貰っておく」
「ありがとう、シェリル」
「手作りですけど味は保証しますので」
シェリルがそう言えば、ドラコは「へぇ?」と試すような口ぶりで言った。
「僕は高級菓子は食べ慣れてるぞ。下手な味だったら返すからな」
「えぇ、構いませんよ」
「シェリルが作ったなら美味しいに決まってる」
二人はシェリルから鮮やかな色のマフィンを貰うとドラコはその場で包みを開けて食べ始め、セオドールはもう一度シェリルに礼を言うとドラコとは逆に鞄の中へしまい込んだ。
「どうですか?」
「…………ふん、まあまあだな」
「美味しいくせに」
「ノット!うるさいぞ!」
そんな風に和やかに会話しているとあっという間に夕食の時間になった。
またあのかぼちゃだらけの食事なのかと辟易しながら三人は大広間へ向かい、席についた。
危惧していたことは無かったようで、割合かぼちゃ料理は多かったが、それ以外にも種類豊富なおかげで満足のいく食事が出来たシェリルはデザートへと手を伸ばした。
ミンスパイを頬張りながら、ドラコとパンジーの会話を聞きつつ、途中小さく話しかけてくるセオドールに答えてと忙しなくしていると。
「トロールが……地下室に……」
息を切らせたクィレルが大広間に駆け込んでそう叫んだ。
瞬間、パニックに陥った生徒達が我先にと扉へ駆け出した時、拡声魔法で大きくなったダンブルドアの声で一瞬で静寂を取り戻した。
その後はダンブルドアの指示で監督生は自寮の生徒を率いて寮へと戻り、教員たちは地下室へと向かった。
「シェリル!早く」
「大丈夫ですよ、ドラコ。私よりパンジーをエスコートしてあげてください」
「……本当に大丈夫なんだな?」
「セオドールも、いますし」
人混みで流されそうになりつつ、短く会話してドラコはパンジーの元へ駆けて行く。
「シェリル!」
か細く、叫ばれた名前に振り返るとセオドールが慌てた様子で近寄ってきていた。
「大丈夫か?人が多かったから、押し潰されたり、足を踏まれたりは?」
「大丈夫。それより寮へ行こう。後で話しておきたいことがあるから」
「わかった」
普段はドラコだけではなく誰に対しても敬語で話すシェリルがセオドールにだけは敬語が抜けている時がある。
それは先日の一件が絡んでいるのだがそれを知るのは当事者のみ故に周りは驚きながらも今は監督生の声に従い足を進めていた。
あの日以来、セオドールは必要最低限の間しかシェリルから離れることがなくなった。
授業や食事の時はいつも隣に座り、それ以外の休み時間や放課後はシェリルが教師から呼び出しや質問しに行ったりしない限りシェリルのそばにいた。
最初は付き合ってるのかと噂になったりもしたが(敬語がない件も含め)、二人の雰囲気が恋人のものではなく、どちらかと言うと姉と弟のようなものだったので周りも騒ぐのをやめた。
しばらくしてトロール事件は終息し、宴のやり直しをダンブルドアが宣言したがスリザリンの生徒の殆どは自寮で残り時間を過ごした。
談話室には残る生徒が数人いた為、シェリルとセオドールは消灯時間が過ぎた頃に暖炉の前で落ち合う約束をして一時的に別れた。
寮に残る生徒は例外なく共有の部屋に戻って10分ほど経ってからシェリルは談話室へと向かう。
セオドールは既に暖炉の前のソファーに座っており、シェリルが来たことに気付いた。
「それで、話というのは……?」
「セオドールは今日のトロール騒ぎ、どう思ってますか?」
火が残る暖炉ではパチパチと音を立てている。
炎に照らされたシェリルの顔は笑って見えた。
「……どう、とは?」
そう聞き返してもシェリルは笑みを浮かべたまま答えない。
「……トロールは馬鹿だから、一匹でホグワーツの、例え地下室だとしても入り込めるとは思えない。ということは誰かが誘導するなりして誘い込んだ」
「では、何故わざわざトロールを使ったのかしら?」
「トロールは馬鹿で暴力的だから恐れられていて、魔法族であればパニックに……」
「何故パニックにさせたかったの?」
「騒ぎが起これば多くの人の意識はそっちに向かって、!」
「ようやく気付いた?今年は三階の廊下が立ち入り禁止になってるわよね?」
「立ち入り禁止になるほど危ない何か、そして騒ぎを起こした張本人はそれを欲している」
「正解。よく出来ました」
セオドールの髪を撫で付け、シェリルはにっこりと微笑み、至上の喜びとばかりにセオドールは笑顔を浮かべてそれを受け入れた。
「ジル様は……騒ぎを起こした犯人をご存知なのですか?」
「しっ……セオドール、その名前で私を呼ばないで」
誰が聞いているか分からない、このホグワーツでは用心に用心を重ねても足りないだろう。
今は、自分がジルだとバレるのは避けたいのだ。
「申し訳ありません……」
「犯人……と言うかこの学校に今ある物も何か、知ってるわ」
「それは誰なのです?」
「簡単に教えてしまったらつまらないわ。それに物語の最後にはまだ相応しくないもの……」
悪戯に笑うシェリルを訝しげに見たセオドールにシェリルはまた可笑しそうに笑った。