クディッチの初試合



11月になると、肌を刺すような寒さが襲った。
まだ雪が降るような時期ではないにしろ、学校の周りの森は早朝には霜が降り、湖には薄く氷が張るほどだ。

そんな寒さの中、生徒達はにわかに活気づいていた。
原因は魔法族なら殆どの人間が熱を上げるクディッチの試合があるからだ。
それも初戦はグリフィンドールとスリザリンの試合だ。

スリザリンの生徒達にとっても変わりなく盛り上がる出来事であるのだが、唯一、例の一件だけが気に入らないのか話題に上ることは少なかった。


「ポッターがシーカーなんて!箒から落ちてくれれば僕としても最高なのに」


そう言うドラコだが、そもそもの原因は飛行訓練の授業中にネビルをからかおうと、思い出し玉を投げてそれをハリーが取ったのが原因である。
マルフォイ家だから、と口に出す者はいないが。

先輩後輩の上下関係よりも家柄が重要視されるスリザリンでは下級生とも言えど魔法界でかなり重要なポジションにいるマルフォイ家に文句を言える人物は少ないのである。
(少ないどころか皆無と言ってもいい。)


「今日はスリザリンのチームが活躍してくれることを願いましょう?」

「あぁ。そうだな……。来年は僕もチームに入れるようになるし、今年は我慢だな」

「私は体が弱いので今回は大人しく寮にいますが、来年はドラコのために見に行きますから頑張ってくださいね」

「もちろんだ!シェリルが来るなら余計頑張らないとな!でもそうか、ホグワーツに来て初めての試合だったから一緒に観戦したかったが、しょうがないな」

「帰ってきたらお話聞かせてくださいね」

「楽しみにしていろ!」


普段の嫌らしい笑みは形を潜め、ドラコは子供らしい可愛い笑顔をシェリルに見せるといそいそと外へ出る準備を始めた。


「ノット、お前は行かないのか?」

「俺も残る。寒いし」

「折角のクディッチの試合だぞ?!寒いなんて理由で残るなんて馬鹿だな」

「風邪引きたくないし。クディッチにはそんなに興味ないから」

「相変わらずお前は変わってるな」


内心、お前に言われたくない。と思ったセオドールだったが、これ以上喋る気は無いと本へ視線を落とした。


「じゃあ行ってくる!」

「気をつけてくださいね」


パンジーと一緒に出て行くドラコを見送り、二人きりになった談話室で約束通りゆっくり時間を過ごそうと準備を始めた。


「……ジル様は、何故ドラコを構うんですか?」

「理由はいくつかあるけれど……」


杖を振って紅茶を淹れていたシェリルにセオドールは静かに問うと、考えながら話し出した。


「ひとつは私があの子の叔母という立場であること」

「えっ」

「あとは……こうしてシェリルとしていた私がいずれ愚弟が復活した際、その姉だと知ってどんな反応するのかとても楽しみなの」

「……貴女らしい答えですね」

「父親であるルシウスも死喰い人ではあったけれど帝王の部下ではなかったから、それを知った時の反応も楽しみのひとつね」

「へぇ、それは初耳だ」

「あとは……私がスリザリンに入るのは確定してたから、上下関係があるスリザリンではマルフォイの名前は便利でしょう?」

「……まさにスリザリン的思考の結果というわけですか。納得しました」


シェリルに情がわくなどとは思っていなかったが、予想以上に利己的な考えでドラコのそばにいることを知りセオドールは小さく笑みをこぼした。


「でも貴女ならマルフォイの名前も無くたってスリザリンで上手くやれてたでしょうに」

「否定はしないわ、これでもホグワーツで過ごすのは二度目だし」

「それもそうでしたね。ジル様が在学してた頃のホグワーツってどんなだったんですか?」

「ふふ、あの頃は平和だったわ。まだ闇の帝王もいなかったし、ダンブルドアも校長ではなかったし」

「へぇ。全然想像出来ないです」

「ハリーが入学するまではここもそれなりに平和だったんでしょうけど」

「……これから先トラブルが起こると?」

「弟がハリーを狙うなら、必然でしょうね」


途端に難しそうに眉を顰めたセオドールにシェリルはくすくす笑い、安心させるように頭を撫でて言った。


「大丈夫よ、ハリーに関わらなければ貴方に被害は及ばないから」

「関わる気も起きませんよ」

「そうね、貴方は私のものだもの」

「えぇ、貴女以外に関わりたくもない程度には」

「ふふ。いい子ね、セオドール」


優しく額にキスを送るシェリル。
セオドールは嬉しそうに頬を上気させ、目を細めた。

それからは、静かな談話室で暖炉の火に当たりつつ穏やかに過ごした。
余談ではあるが、セオドールはシェリルの膝枕で眠り、寮生が戻る前にシェリルに起こされて上機嫌だった。

戻ってきたドラコの機嫌は最低だったがそれに我関せずといった態度を貫いたセオドールだった。