招待状



ホグワーツという場所は真に不思議な場所で、スリザリンの寮も地下にあるはずなのに何故か窓がある。
生徒達はそれを特別不思議なこととは思わず受け入れていた。……ホグワーツだから、と。


時に窓は日差しを浴びたり、空気の入れ替えをする時に開放されるが、もう一つ大事な役割があった。

ーーーコンコン。
それはふくろう便だ。
日中は多くの生徒達は広間や食堂で受け取るが、夜はそうもいかない為、地下にあるスリザリンの寮では窓は大活躍しているのだ。
ひとえに、他寮より貴族出身の者が多く、冬に入るこの時期は特に実家や懇意にしている同じ貴族からのふくろう便が特に増えるからである。

コンコンコンコン!と苛立った様子で窓を叩く茶色のふくろうを、同室のパンジーが部屋の中に入れて足に括りつけられた手紙の宛名を見てシェリルに差し出した。


「シェリル、あなた宛てよ」

「ありがとうございます」

「それ、ウィンターソンの家紋よね」

「えぇ、実家からですね。多分クリスマス休暇に帰省するかどうかの確認だと思います」

「私のところにも来たわ。そうそう!今年はドラコの家のクリスマスパーティーの招待状が来たからドレスを新調しなくちゃ!」


恋する乙女のパンジーは今から想い人にエスコートしてもらう気満々で、まだ決まっていない自分のドレスは何がいいとか言いながら笑った。


「シェリルも帰るんでしょう?」

「えぇ、私もドラコから招待状が来ているし、何より我が家でもパーティーを開くみたいだから」

「そうなの?でもこの時期にクリスマスパーティー以外で開くなんて珍しいわね」


首を傾げたパンジー。
シェリルは困ったように笑ってウィンターソンだから、と言えばそれもそうか、と納得したらしく頷いていた。

魔法界の中で純血貴族であるウィンターソン家は実力主義を掲げている。
純血でなくても一つものものに秀でていれば喜んでその血を交えていた。
それでも今だに純血貴族であるのは、純血であれば秀でている者が多いのも確かなことであるからだった。
故にウィンターソンは魔法界でも、ウィーズリー家程ではないが、変わり者の位置にいることは確かだった。


「何のパーティーをやるの?」

「さぁ……、何も教えてくれなくて」

「さすがウィンターソン家。仕方ないことだけど、シェリルも苦労するわね」


同情するわと、同じく純血貴族に名を連ねるパンジーがうんうんと頷きながら言う。

シェリルはパンジーに、何のパーティーをやるのか教えてくれないと言ったが、知っていた。
むしろこのパーティーはシェリルが開催しようと言い出して現在ウィンターソン家に準備させているものなのだ。


「誰が来るかも教えてくれないの?」

「うーん、確かセオドールのお父様とか……」

「!そうよ、シェリル!!ノットと付き合ってるの?!」

「いえ、、そういう訳では……」

「じゃあノットの片想いって訳ね!それに、アンタ気付いてないだろうけどファンクラブが出来てるわよ!もちろんノットにも!当たり前だけどドラコにもよ!」


勢い込んでまくし立てるパンジーにシェリルは驚きながらも頷き返す。


「ファンクラブ、ですか。皆さん変わってますね」

「……シェリル、アンタが影でなんて呼ばれてるか教えてあげましょうか?」

「……なんて呼ばれてるんです?」

「深緑の令嬢、ダークグリーン・レディよ。ダークグリーンはまぁスリザリンだから当然だけど、たまに見せる物憂げな表情、洗練された仕草に丁寧な言葉遣い。そして親しい者にしか見せない穏やかで透き通るような微笑み!ってことらしいわよ。ついでに言っとくと、ノットは深緑の騎士、ダークグリーン・ナイトってとこかしら。令嬢を守る騎士って辺りね」

「…………それはまた大袈裟な……」

「大袈裟じゃないわよ!自覚無いかもしれないけどたまーにすっごい大人に見える時あるんだから!令嬢より大人の女、アダルトな感じ?ドラコはブロンド・プリンスよね!」


自分の世界にトリップしてしまったパンジーを傍目に、シェリルはため息をついた。

ドラコ以外の子供と久しく接していなかったから、子供の想像力というか噂話を甘く見ていたようだ。
深緑の令嬢なんてあだ名を付けられて、しかもセオドールは深緑の騎士だなんて。


「シェリル、そう言えばドラコのパーティーでのパートナーは決めたの?」

「あぁ、そうですね。セオドールに誘われましたよ」

「やっぱり!そうだと思ったの!私はね、ドラコとペアなのよ。あ、ドラコにどんなドレスローブで来るのか聞かなきゃ!どうせならペアだって一目見てわかるようなのがいいもの!」


パンジーは言うだけ言うと、女子寮から慌てて出て行く。
ルームメイトのミリセントや他の部屋から遊びに来ていた生徒も苦笑混じりに見送り、最後は目を合わせてみんなで笑い合った。