笑顔の裏に隠された思惑
無事にホグズミード駅に到着し、制服に身を包んだ生徒達が特急を降りるとホームではホグワーツで森番を務める巨人と人間のハーフ、ルビウス・ハグリッドが一年生をまとめていた。
「あんな薄汚い森番を引率に使うなんて本当に理解できないね」
「ふふ、あんまり怒っていたら綺麗なお顔が台無しですよ?」
盛大に顔を歪ませたドラコを宥めるようにシェリルが言うと、『綺麗な顔』というフレーズに一瞬、馬鹿にしているのかと声を荒らげそうになったがドラコは彼女が本音でそう言っていることに気付いて、自分の頬に熱が集まっていくのを感じた。
「……僕は男だ」
「それを理解した上で綺麗と言ったんですよ?」
「そうだとしても、綺麗と言われるのはどうかと……。それに同い歳なんだし、敬語は使わなくても」
距離を感じるし、とドラコが言うとシェリルは眉尻を下げて申し訳なさそうに答える。
「すみません。敬語は癖のようなもので……努力はしますので」
「あぁ。そうしてくれ」
そんな会話をしているうちに船着き場へと到着し、数人ずつ船に乗っていく。
ちょうどドラコが船に乗ったところで区切られてしまい、ドラコとシェリルは学校で合流しようと約束をして別れた。
そうして次の船に乗り込むと、他に眼鏡をかけた男の子と、赤毛が特徴的な男の子がシェリルの後に乗った。
「……ハリー・ポッター?そちらは、アーサー・ウィーズリー様のご子息の……Mr.ロナルド・ウィーズリーね?」
「う、うん。そうだよ」
「パパを様付けって……君、誰?」
戸惑い気味に肯定したハリーとかなり怪訝な表情で聞いてきたロンに、にっこりと人受けする笑顔でシェリルは自己紹介をする。
「私はシェリル・ウィンターソンと申します。シェリルとお呼びください」
「僕、ウィンターソンって聞いたことある!確かパパが純血主義ばかりの魔法省の役人の中で唯一マグルの文化を取り入れた人だって!」
「よくご存知ですね。うちの家は純血も一応大事にはしていますが、それ以上に我が一族は実力主義ですから。力を持つ者であれば、マグル、マグル生まれ、純血、一切関係なく、敬意を持って接しております」
シェリルの言葉に目を丸くする二人。それを気にせずシェリルは続けた。
「アーサー・ウィーズリー様のことは父からよく伺っております。新しいものを恐れず何でも試す度胸と勇気をお持ちだと。そして魔法族なら誰でも知っている……Mr.ポッター、貴方の事も幼いころから何度も聞かされていました。例のあの人を打ち破ったと」
「僕……そんな、」
「イッチ年生!こっちだ、はよう来い」
顔を曇らせたハリーが否定の言葉を発しようとした瞬間、森番のハグリッドの声がそれを遮った。何か言いたげにしていたハリーに気付きながらもシェリルはそれを無視して言う。
「もうすぐのようですね、Mr.ポッター、Mr.ウィーズリー。恐らくですが、私は家系的にスリザリンへ入寮することになるでしょう。ですが……寮を超えて仲良くして頂けると嬉しいですわ」
二人は思ってもいなかった言葉にお互い顔を見合わせ、そして。
「まぁ……シェリルは他のスリザリンの奴とは違うようだし、何よりマルフォイみたいに嫌味言わないし」
「よろしくね、シェリル」
「ふふ、宜しくお願いします」
「それと僕の事はロンでいいよ。Mr.ウィーズリーなんてホグワーツだけで4人もいるんだから」
監督生のパーシー、双子のフレッド、ジョージ、そしてロン。
確かにグリフィンドールでMr.ウィーズリーと呼べば振り向く人間が4人もいるのにそう呼ぶのは些かややこしい。
「じゃあ僕の事もハリーって呼んで。Mr.ポッターなんて柄じゃないよ」
肩を竦めて言ったハリーとロンにシェリルは了承の意を込めて綺麗に微笑み返した。