始まった賭け、その対価は
あの日以来、度々スネイプの自室へ訪れる様になったジルがいつからか現れなくなったことに安堵しつつ、スネイプは新入生へと目を向けた。緊張した面持ちの新入生の中に見慣れた顔を見つけて(他人に分かる程変化はなかったが)驚愕する。
「(何故、あの女が……!)」
そして、順に呼ばれた新入生が組み分けされていく中、ついに。
「ウィンターソン・シェリル!」
組み分け帽子を手にした魔女、ホグワーツの副校長を務めるミネルバ・マクゴナガルが高らかに彼女の名を読み上げた。
新入生に混ざるシェリルは新入生のような初々しさは無く、周囲のざわめきをよそに、静かな足取りで全校生徒の前へと歩み出る。
スネイプの顔は自然と険しくなっていく。
「ウィンターソンって……あの?」
「きっとそうよ。あそこってホグワーツに入学する子供がいたのね」
「静かに!組み分けはまだ終わっていませんよ!」
ヒソヒソと話す声を静めたマクゴナガルはシェリルを見て若干ぎこちなく笑うと、小さな丸椅子に座るよう目で合図した。
大人しく従ったシェリルの頭に古びたとんがり帽子が乗せられる。
……そんなに長くはない時間で帽子が叫ぶ。
「スリザリン!!」
広間に響いた組み分け帽子の声。一瞬の静寂ののち、スリザリンのテーブルからは歓声が上がった。
以前もスリザリンだったと聞く。
他の寮へ行くなどありえない、とスネイプは若干の安堵と多大な警戒心を持ってジルの組み分けを見送る。
自分が寮監を務めるスリザリンに頭痛の種がやって来て辟易としてしまうが、ジルは優秀という言葉以上に秀でた魔女だ。そんな魔女がスリザリンへ来るならば今年も優勝杯を貰った、と複雑な思いを抱えていると。
少し離れた教員席の真ん中に座る校長を見遣る。
シェリル・ウィンターソンがジルだと知っているのだろうか、と疑問が浮かんだが、知らないことはあり得ないだろう。
にも関わらず自分に言わなかったあの狸の腹黒さに苛立ちが募る一方だった。
じっとこちらを見つめる視線を感じ、視線を移した。
そこにはかつての“彼女”と同じ緑色の瞳を持った彼女の子供がいた。
新入生全員の組み分けが終わり、ダンブルドアが食事の前の挨拶を始めた。
学校の廊下で魔法は使わないこと。
3階の右側の廊下には入らないこと。
禁じられた森に入らないこと。
などの注意事項を述べたあと、ダンブルドアはシェリルの方へじっと視線を送っていた。
それに気付いたシェリルは目を合わせるとニッコリと笑顔を向けて、小さく唇を動かした。
『さぁ、どちらが勝つか勝負をしましょう』
少女の笑みは透き通るような綺麗な笑みだった。