ノンデリ五条の失恋

「うわ、五条先輩だ」
やってしまった、と気がついた時にはもう遅かった。
一つ年下の後輩である夢主のことが好きだった。「はじめまして」と笑った時の笑窪がかわいくて一目ぼれした。だから五条は事あるごとに夢主のことを笑わせようとしたが、その試みは尽く失敗した。なぜなら五条は義務教育を家で済ませて来たから。小中合わせて9年分、同級生に比べて情緒とコミュケーション能力で遅れを取っている。自分が笑えるネタは相手も笑えると思って「ち〇こ」みたいなド直球下ネタを投げ付けては夢主を困らせた。それでもその時はまだ良かった。夢主の中の五条はまだ「下品なジョークを言う先輩」でギリギリ好意を持たれていた。
だけどある出来事をきっかけに五条と夢主の関係は変わることになる。それは共に任務に出かけたときのこと。五条が特級呪霊を軽く祓ったのを見て夢主はきらきらと目を輝かせた。
「先輩って本当にすごい人だったんですね」
好きな子からのまっすぐな称賛に五条は気分がよくなるが、小学生なみの情緒は素直にそれを表すことができない。
「は。これくらい当然だろ。お前が弱いんだよ」
照れ隠しに夢主を腐すと彼女は「先輩ひどい」と言いつつも笑う。初めて夢主を笑わせられたこと、軽口を交わせたことが嬉しくて胸が高鳴った。
その時の胸の高鳴りが忘れられなくて、五条は任務で夢主と組む度に彼女を腐すようになる。
「全部俺に任せておけよ」「こんなのに苦戦したとかマジ?」
だけど夢主はあの時みたいに笑ってくれることもなければ、軽口を返してくれることもない。思い通りにならない苛立ちもあって五条の言葉はだんだん過激になっていった。
「雑魚」「足手まといは来んなよ」「お荷物」
その頃から五条と夢主が任務で組むことは無くなった。夢主が五条と組みたくないと夜蛾に申告したのだ。だけどそれを知らない五条は校内で夢主に絡むようになる。
「ようチビ」「小さすぎて見えなかった」「ミジンコかと思ったわ」
だけど絡み方が変わらない以上夢主からの好感度が上がることはなく。五条はさらに夢主から避けられるようになり、しまいには校内でさえ夢主と会えなくなった。
そして夢主と顔を合わせなくなって数日。久しぶりに五条は夢主の姿を見つけた。廊下を曲がった先、数十メートル先で七海と談笑している。五条の前では笑わないくせに七海の前では笑うらしい。イライラしつつどうやって彼らの会話に割ってはいってやろうかと考えた瞬間、夢主の目が五条を捕らえた。
「うわ、五条先輩だ。七海隠れさせて」
「別にいいですけど……無駄じゃありませんか?」
「しっ!いいから黙って!」
夢主が七海の後ろへとまわりこむ。その顔は、遠目にもわかるほど露骨に嫌そうな表情をしていた。
「……いやなんだもん。会う度会う度ヤなことばっかり言ってきてさ」
ガツン、と頭を殴られたような感覚だった。そうか自分の言葉は彼女にとっての「ヤなこと」だったのか。もはや絡む気力もなく夢主に背を向ける。
「よかった。私に気がついてなかったみたい」 
「……本当にそうでしょうかね」

五条
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