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彼がいたそこには、星のオーラが浮かんでいた。僕はそれを手にとる。
「よくやった、ユリエルよ」
お師匠さまはどこか満足げな表情をしていた。
「あの者も悔いなく天に召されたであろう」と、お師匠さまは星が光る夜空を見上げながら言った。
「さて、どうする。一度天使界に戻るのか?」
少しの沈黙のあと、お師匠さまが問いかけてきた。星のオーラもたくさん集まったことだし、天使界に戻って世界樹に捧げてこようか。そう考えた僕は、お師匠さまの問いに、「はい」と頷いた。
「そうか。それでは、気をつけて帰るのだぞ」
「あれ、お師匠さまは帰らないんですか?」
「私は今しばらく下界にいよう。……ん?」
ブオオ……と音がして、僕とお師匠さまは同時に空を見上げた。遠くで微かに金色の列車が見えた気がした。「天の箱舟か……」というお師匠さまの呟きで、先ほど僕が見た金色の列車は天の箱舟であったとわかった。
ぼそ、とさらにお師匠さまは何かを呟いたけど、それは僕には聞こえなかった。
「……気が変わった。やはり私も天使界まで同行させてもらうぞ」
「それはもちろん構いませんが、下界に用事があったのでは……?」
「いや、それよりも気になることができたのでな」
行くぞ、というお師匠さまの言葉に、僕は飛び上がる準備をする。僕たちはほとんど同時に飛び上がり、天使界へと向かった。
天使界につくなり、お師匠さまはオムイさまに用があると言って、さっさと行ってしまった。最近のお師匠さまは忙しそうだなあ、と感じる。お師匠さまほどの上級天使になれば色んな仕事があるだろうから、仕方ないといえば仕方ないけれど。
「あら、ユリエル、ずいぶんたくさんの星のオーラを集めてきたのね! 今、世界樹がすごいことになってるらしいわよ。さっそく捧げてきなさいな」
「すごいこと……?」
すごいこと、というのがどういうことかはわからないが、とりあえず世界樹の方に向かうとしよう。どの道この星のオーラは世界樹に捧げるものなのだから。
どうやら世界樹がすごいことになっているらしい、というのはみんな知っているらしく、世界樹のもとへは行けないにしても、みんなが世界樹を見上げていた。遠くからでも、その溢れ出しそうなオーラを感じることができる。
世界樹のもとへ行くと、そこにはお師匠さまとオムイさまが立っていた。この二人がわざわざ世界樹のもとへ来るなんて……。僕はやっと、すごいこと、の意味がわかった気がした。お師匠さまはともかく、オムイさまはあの玉座から動くことさえ珍しいのだ。
「お師匠さま」
僕の声に、お師匠さまは振り向いた。その隣のオムイさまも。二人のすぐそばにある世界樹は、眩しいと感じるほどに輝いている。お師匠さまとオムイさまという上級天使の二人、いつもと様子の違う世界樹。どこか、夢を見ているような気分だった。
「おお、ちょうどよいところに来たな、ウォルロ村の守護天使、ユリエル。見よ、この世界樹を……。星のオーラの力が満ちて、今にも溢れだしそうだ」
「あとほんの少しの星のオーラで、世界樹は実を結ぶはずじゃ」
世界樹が実を結ぶ−−それはつまり、僕たち天使が永遠の救いを得ることを示す。永遠の救いとは何なのか、僕たちはどうなるのか、言い伝えはそこまで詳しいことは言っていない。
ずっと、聞いてきた言い伝えが真実なのか、僕はこの目で見ることができるということだろうか。お師匠さまが、僕の持つ星のオーラを捧げれば実が実るだろうと言う。
「いいん、ですか……?」
「ああ」
星のオーラが、世界樹に吸い込まれていく。世界樹は、きらきらと輝く。目も開けていられないほどに。女神の果実じゃ! とオムイさまの声が聞こえて、どこからか汽車の音もした。天の箱舟だ。
目を開けると、その瞬間天の箱舟はばらばらになり、地上へ落ちていった。何が起こったのかわからないうちに、天使界が大きく揺れだした。立っていられないほどの揺れで、僕は世界樹にしがみつく。しかし揺れはおさまらず、ひときわ大きい揺れが天使界を襲うと、僕はそのまま天使界から投げ出された。
「っ、ユリエル!」
最後に聞いたのは、お師匠さまの僕を呼ぶ声だった。