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「レニーくんは、この村の人?」
「いや、俺はセントシュタインの出身なんだ。今はリッカさんの宿屋に泊まってる。あの地震の翌日に帰ろうと思ってたんだけどさ、土砂崩れで峠の道が塞がれちまって」

 参ったよな、と明るく笑うレニーくん。あまり深刻さを感じさせない笑顔だ。

「それで、帰れるまで宿屋に泊めてもらおうと思うんだけど、金がなくてさ。リッカさんに何か手伝えることはないか、訊きに行こうと思って」
「……僕も、リッカちゃんに何かできないかなあ」
「ユリエルもリッカさんには世話になってるしなあ。二人で訊きに行くか」

 うん、と頷いて、二人でリッカちゃんの家に向かう。

「そういえば」

 ふと、レニーくんが思いついたように僕の顔を見る。どうしたの、と訊くとレニーくんは「訊いていいかわからないんだけど」と前置きをしてから話し始める。
 なんだろう、と呑気に考えていた僕に、レニーくんは鋭い質問を投げかけてきた。

「ユリエルは、なんで滝の上なんかにいたんだ? あんな夜更けに」

 僕は言葉に詰まる。当然の質問だと思った。あんな時間に、一人で滝の上にいるなんて、おかしな話だ。何か事情があると思われるのは当然で、そもそも僕は滝の上にいたんじゃないけれど、本当のことをぺらぺらと話すわけにもいかない。さっき出会って自己紹介をしたばかりの関係、レニーくんはいい人だと思う、でも、それとこれは関係ない。
 何か適当な理由をつけて誤魔化さないと、とは思うものの、僕はそんなに頭の回転が早くない。うまい言い訳なんて、すぐには思いつかない。えっと、とか、その、とか意味のない言葉で場を繋いで、どう言えばいいのかを考える。

「えっと−−そう、薬草があって、あそこに」
「薬草? へえ、あんなところに薬草があったのか! いいこと聞いたぜ」

 次はどんなことを訊かれるか、こんな穴だらけの苦しい言い訳、問い詰められればいつかぼろが出てしまう。お願い、見逃して。そんな僕の心の声が聞こえたのか、レニーくんはそれ以上何も訊かずに、信じたふりをしてくれているみたいだった。
 不思議な人だ、と思った。僕に対して警戒心をむき出しにしている人も多いのに、レニーくんはそんなことを微塵も感じさせない。好奇の目にさらされて、少し疲れていた僕だったけれど、レニーくんと話しているとそんなことも忘れてしまいそうになる。初めて、嘘をついた。嘘だって、きっとばれているんだろうけど、本当のことが知られることはない。僕が言わない限りは。

「ごめんね、」

 嘘をつくというのは、僕にはどうも難しいようで。

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