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 長老であるオムイさまが座っている玉座の横には、上級天使二人が立っている。オムイさまに対して粗相をすれば二人がかりで押さえ込まれてしまうらしい。

 僕にはまだよくわからないけれど、とにかくオムイさまは、天使界になくてはならない方なんだと、お師匠さまが言っていた。

 少し緊張しながら、オムイさまに近づく。厳格な雰囲気はあるけど、威圧感があるとかそういうことはなくて、むしろ穏やかな雰囲気を纏った方だ。

「よくぞまいった。イザヤールの弟子、ユリエルよ。わしが天使界の長老オムイじゃ」

 少し前までは修行中の天使だったから、オムイさまを間近で見る機会なんてなかった。長い間天使界を治めてきた方というだけあって、年長者らしい朗らかな雰囲気と、しかしどこか逆らえない雰囲気を持っている。

「守護天使として、地上での初めての役目、ご苦労じゃったな」
「ありがとうございます。でも、お師匠さまがついてくださっていたということが大きいと思います」
「そうじゃったな。じゃが、これからは一人で守護天使としての役目に務めなければならないが……どうじゃ、やっていけそうか?」

 訊かれて、お師匠さまがいなければ、と想像してみる。口を出したりはしてこなかったけれど、隣にお師匠さまがいるというだけで、僕は安心できた。それがないとなると……少し不安になってしまう。まだまだ守護天使になるほどの実力じゃないのかな、なんて思ってしまうけど、そんなことを言ってはお師匠さまに怒られてしまいそうだ。

「……きっと、大丈夫だと思います。だって、僕をここまで育ててくれたのは、あのお師匠さまですから。守護天使として未熟だったら、きっとまだ修行を続けていましたよ」
「ユリエルは話に聞いていた通りじゃのう。頼りなさげじゃが、芯はしっかりしておる。この分なら、問題なさそうじゃ」

 オムイさまは僕の言葉に微笑み、話を続ける。

「そんなユリエルに、次の役目を与えるとしよう。地上でお前が手に入れた星のオーラを、世界樹に捧げるのじゃ」

 世界樹−−僕はまだ近くで見たことのないもの。シルヴィーから話を聞いたことがある。大きくて、青く輝いていて、とても美しい樹だ、と。

 世界樹に近づくことが許されるのは、守護天使や一部の上級天使のみ。見習い守護天使だった僕は、世界樹に近づくことはできなかった。

『樹はやがて育ち、その枝に実をつける。女神の果実と呼ばれるそれが実ったとき、天使は永遠の救いを得る』

 修行中に読んだ書物の一部分。言い伝えのようなもので、それが本当なのか、迷信なのか、僕にはわからないし、きっとオムイさまにもわからない。

 だけど、星のオーラを集めて、世界樹に捧げるのが僕たちの使命。噂では、近頃の世界樹は力が溢れだしそうなほど輝いているとか。僕たちが『永遠の救い』を得るのも近いと、誰か偉い天使さまが言っていた。

 それは天使界が作られたときからの言い伝えで、僕にはまったく想像もできないほど昔からのもの。世界樹が女神の果実を結んだとき、天使界に何かしら起こるんだろうと思う。だけどそれはどこか他人事で、僕が直接関係することなんてないんだろうと思っている。

 僕が今回集めてきた星のオーラは、ほんの少しだけ。いくら世界樹に力が満ちているとはいっても、こんなほんの少しの星のオーラではさすがに実を結ぶことはないはず。

 古くからの言い伝えの真実をこの目で見てみたいという好奇心と、何が起こるかわからないという少しの恐怖心。他人事に感じているからこそ、僕はそんな風に思えるのだろうなあ。

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