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 あのあと、いつも厳しいお師匠さまには珍しく、優しい言葉をかけてもらった。お前の今後に期待している、と。

 オムイさまに報告をして、おそらく僕は再び地上に赴くことになるだろう。ウォルロ村の守護を引き継いだのだから、あまり長く村を離れているわけにはいかない。

「ご苦労じゃった、ユリエル。……して、世界樹の様子はどうであったかな」
「はい、星のオーラを捧げると、眩いほどに輝いておりました」

 僕の言葉に、オムイさまは「ほほう」と嬉しそうな声を上げる。ふさふさした髭を触りながら、「これはいよいよかもしれんな」などと呟く。

 そしてオムイさまは、僕に次にやるべきことを伝えた。もう一度地上へ赴き、星のオーラを集めてくること。それが僕に与えられた次の役目だった。

 オムイさまと話し終えると、僕は一つ深呼吸をした。人間界でそこまで危険な目に合うことはないと思う。僕一人でも、星のオーラを集めてみせる。

 そうと決まれば、僕はその場を駆け出した。星のような形をした穴のところへ行くと、近くにいた女天使が話しかけてきた。

「もう地上に行くの、ユリエル?」
「はい」
「そう、一人で地上に行くのは初めてだったわね。いってらっしゃい、ウォルロ村の守護天使、ユリエルさん。頑張ってね!」
「はい! いってきます」

 ぴょん、と穴の中に飛び込む。その穴は地上に繋がっていて、僕は翼を使って、ウォルロ村の滝の前に着地する。

 ちょうどそこでは、村の青年二人が何か話しているところだった。星のオーラを集めるにも、情報収集をした方がいいか、と二人の話に耳を傾ける。

「しかし、不思議なんだよなあ……」

 独り言のように呟く一人の青年。それに対しもう一人の青年が、反応する。それって天使像に書かれてる名前のことっすか、ニードさん。と言った。

 先ほど独り言のように言葉を呟いた彼はニードというらしい。天使像の名前を覚えているようなタイプには見えないけれど、意外と信仰深いのだろうか。

 と思いきや、彼は天使の力云々と言ったもう一人の彼を馬鹿にしたような態度をとる。信仰心が厚ければ、以前天使像に書かれていた名前をぼんやりと覚えているのもわからなくはないけれど……。

 とりあえず、彼らは特別困っているようでもないので、その場を離れる。どうやら彼はこの村のリッカという少女に想いを寄せているらしいけれど、それはさすがに守護天使である僕にはどうしようもない。人間界では天使が愛し合う二人を結びつける……なんていう話もあるらしいけれど、残念ながら僕たち天使にそんな力はない。

 ごめんね、と小さく呟き、僕はその場を離れた。

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