▽後編《爆豪side》


今にも止まってしまいそうな呼吸のなか、俺の制止も聞かず自分の過去を話し始めた。
個性のなくなった未来を壊すために、
俺が無事に生きていられる時代をつくるために…。


「ンだよそれ…ふざけんなよ!お前がボロボロになったら意味ねェだろ!」
『私は…爆心地に…返せない程の恩をもらった……これで未来を守れるなら…私は死んだっていい…』
「ふざけんな!!死んでもいいとか言うんじゃねぇ!!全部知ってたのかよ…どこで何が起きるか…」
『…大体でしか…聞いてなかった。だから…可能性のある…ところ…注意してた…』

馬鹿かよ。未来の俺を変えるために自分を犠牲にするなんて。
未来の俺はお前を助けてやったかもしれない。
でもそれは未来の俺がした事であって、今の俺はお前に何もしてやってない。
次第に弱くなっていく呼吸。

「俺が無事で平和な未来になっても…お前がいなきゃ意味ねェんだよ!!」
『………』
「ふっざけんなよ…勝手に…勝手に終わらそうとすんなよ…葵」

俺は葵を抱え外へ通じる扉へ走った。
先ほどよりも敵の数はかなり減り、ヒーローも増援にきていた。
すぐさま葵はヒーローによって病院へ搬送された。





如月葵と札のかかった病室をノックして扉を開いた。

『…あ、爆豪くんだ』
「…テメェ…」

病室のベッドの上で上半身を起こし、切られたリンゴを頬張る葵がいた。
あの日、病院に運ばれ手術を受けた葵は、命に別状はなくすぐに意識を取り戻した。

『私リンゴより梨のが好きだなぁ。爆豪くん、次は梨持ってきてね』
「…クソが!全然元気じゃねェか!!」
『爆豪くんうるさい。ここ病院だよ』

今にも死にそうだった葵はまるで嘘のようにぴんぴんしていた。
一瞬涙腺が緩んだ瞬間を返せと言いたい。
しかし頭や腕に巻かれた包帯を見ると、怪我が酷かったことはよくわかる。

『…爆豪くん、怒ってる?』
「当たり前だろうが。腸煮えくり返ってるわ」
『ごめん…なさい』
「二度と勝手な真似するんじゃねェ…心臓がもたねェわ」

敵の襲撃後、ヒーローの到着が速かったこともあり現れた敵は全員取り逃すことなく捕まった。
葵に銃口を向け、俺が爆破で倒した男は科学者だったそうで、葵の話に出てきた未来で俺が逃した敵に間違いなさそうだった。

『そういえば最後…爆豪くん私がいないと意味ないって言ってたけど…どういうこと?』
「あ″ぁ″!?んでもいいだろ別に」
『えぇー!めっちゃくちゃ気になるんだけど』

頬を膨らませながら問いただしてくる葵は一向に引く気配はない。

「あー!ったく一度しか言わねェからよく聞いとけよ」

頬に熱が集まるのがわかる。
多分、今までで一番頬が熱くなっている。

「…俺はお前が好きだ。俺はお前と一緒に生きていきたいんだよ」

葵は一瞬キョトンとしていたが、俺の言葉を理解したのか次第に頬が赤く染まっていった。

「返事聞かせろや」
『え、好き?私を…??』

混乱しているのか目線があちらこちらに移っていた。
それもまた少し可愛いと思ってしまう自分がいた。
追い打ちをかけるように顔を隠そうとする手を握った。

『ばばばば爆豪くん!?』

いつもヘラヘラと笑っている葵からは想像できないほどテンパっている。

『えと…まさか好きだなんて…爆心地はお父さんみたいだったし…えと…』
「告ってるのは同い年の爆豪だボケ」

未来の俺が葵に対してどんな感情を持っていたのかは知らない。
歳的には親子のような関係だったのかもしれないが、本当は葵のことを好きだったかもしれない。
けどここは未来じゃない。
今、同い年の俺が葵の事を好きなんだ。

『私といたらまた…嫌な未来になるかもしれない…』
「ンなのわからねェだろ。つーか俺はその未来しらねェし」
『…ははは。流石爆豪くん、強引だね』
「うっせぇわ。で、返事は」

握っていた手を葵は握り返してきた。
びっくりして顔をみれば葵は笑っていた。

『私も爆豪くんが好きだよ』

そう言って頬にキスをしてきた。
さっきまでやり返したと思っていたが急なキスに俺は冷めかけていた頬の熱が再び上がった。

「は、反則だろ」
『えー先にやったの爆豪くんじゃん』
「ったく…今度無茶したら俺がぶっ殺すからな」
『こっわ!爆豪くんこそ無茶しちゃだめだからね!』


俺達は互いに笑いあった。
この先の未来を俺達は知らない。
未来が変わったのかも分からない。
けど俺はお前との未来を絶対に守って見せる。
幸せな未来を―


爆豪side 終

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