俺はずっと好きだから《前》(爆豪)


幼馴染《だと言う》爆豪勝己はとても優しい。

「葵帰るぞ」
『かっちゃん!』

放課後になるとかっちゃんは必ず私のクラスへやってくる。

「…ちっ。その“かっちゃん”って呼ぶのやめろ。もうガキじゃねぇ」
『えー。でも私はそう“呼んでた”んでしょ?』

“呼んでた”
私には《幼馴染の爆豪勝己》の記憶がない。
中学3年生の春、私は教室の窓から落ちた。
全身を強く打ったものの幸い命に別状はなく済んだ。
だが代わりに記憶障害が起きていた。
勉強や生活に支障のでるようなことはなかったが、何故だか《爆豪勝己》という人物のことだけが記憶からなくなってしまっていた。
目が覚めてから「誰か分からない」と言ったときの彼のショックを受けた顔は今でも覚えている。
人から聞いて幼馴染だと知ったけれど、私の記憶には全くない。
今でも事故以前の彼のことは思い出せない。


『あ、雨降ってるじゃん。傘忘れた』
「ったく。天気予報見てこいよな」

そう言いながらもかっちゃんは持っていた折り畳み傘を広げ、私も中に入れてくれる。
さりげなく車道側を歩いてくれる。
クラスの人や友達にこのことを言っても皆信じてはくれない。
私の知っているかっちゃんは、口は悪いけどいつも優しい。
そんな彼が私は大好きだった。

『こうやって歩いてるとカップルみたいだね』
「あ″?…葵とカップルとかごめんだわ」
『ひっどいなー!私かっちゃんのこと好きだよ?』
「あっそ」

かっちゃんは時々、悲しそうな顔をする。
周りからすれば何も変わりないようにみえるのかもしれないけど、私がある話題を出すと必ず表情が一瞬だけ変わる。

『でも幼馴染で恋人ってよくあるじゃん』
「漫画の読み過ぎだろ」
『あーあ。私の記憶早く戻らないかなぁ…そしたらもっとかっちゃんと昔話とかできるのに。そこから恋に…』
「ねェよ。つーかそんな話すようなことねぇし思い出さなくてもいいだろ」

ひとつは私が記憶の話をしたとき。
もうひとつは私がかっちゃんを好きだというような話をしたとき。
決まってかっちゃんは少し話を逸らそうとする。
理由はわからない。
聞こうとも思ったけど、今の関係が壊れてしまいそうな予感がしてどうしても聞くことができなかった。
だから私がどんなにかっちゃんを好きでいても、かっちゃんは流してしまう。
それがどうしようもなく悲しかった。



「ずっと好きでした。私と付き合ってください!」

昼休み、人気のない裏庭で耳に入った言葉。
思わず私は物陰に隠れてしまった。
こっそりと言葉が聞こえた方を覗いてみれば、そこには2つの人影があった。
1人は同じ学年の女子生徒。
もう1人はー…かっちゃんだった。
さっきの告白した女子生徒は頬を赤らめていた。
少し離れているせいもあって、2人の会話は上手く聞き取れない。
盗み聞きはよくないと分かっていても、かっちゃんの答えが気になって仕方がなかった。

かっちゃんは何かを言うとそのままその場を立ち去って行った。
残された女子生徒は頬が赤くなったままだったけれど、悲しそうな顔をしていた。

潤んでいた目をこすり顔をあげた女子生徒と目が合った。

『あっ…あの…えーっと…』

謝るべきなのか慰めるべきなのか困ったままあたふたしていると、女子生徒は鋭い目つきをしてこちらへ近づいてきた。

「あなたさえいなければ爆豪くんだって他の女の子を見るようになるのに」
『へ?』
「友達から聞いたわ。中学の時に事故で記憶失くした爆豪くんの幼馴染って、あなたのことでしょ?」
『う…うん…そうだけど』

同じくらいの身長の女子生徒は、睨みつけるように私の目を見ていた。
さっきまでの雰囲気とはまるで違う。
反論を許さないとでも言うような威圧感に私は上手く言葉を返せない。

「あなたが事故なんて起こさなければ爆豪くんが罪悪感を持つこともなかったのに…」
『え?事故を起こした…?どういうこと…?』
「まさか知らないの?」

彼女の話した出来事に私は言葉が出なかった。
最後に彼女が何かを吐き捨てるように言い残し立ち去っていったが、何を言ったのかもわからない。
ただ頭の中が真っ白で、しばらくその場から動くことができなかった。

話を聞いてからどれくらい時間が経ったのだろう。
午後の授業の内容も覚えていない。
帰りのホームルームが終わり、私は鞄を手に教室をすぐに出た。
今かっちゃんに会いたくなかった。
急いで学校を出て少しするとスマホが鳴った。
きっとかっちゃんからだ。
だけど私はそれを無視して足を速めた。

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