俺はずっと好きだから《後》(爆豪)
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俺の初恋の相手で幼馴染の如月葵には中学3年以前の俺の記憶がない。
今でも夢に見ることがある。
あの日の“事故”をー…
俺はいつものようにもう一人の幼馴染のデクを馬鹿にしていた。
ヒーロー解析ノートなんてくだらないものをとりあげて、爆破して窓から投げた。
ただそれだけだったんだ。
そのままノートは下に落ちるはずだった。
だけど違った。
ノートが俺の手を離れた直後、目の前を葵が走っていった。
躊躇いなく窓から飛出し落ちていくノートを手に取った。
そしてそのまま葵はノートを抱えて落ちていった。
何が起きたのか分からなかった。
下にあった池に何かが落ちた大きな音がした。
俺は窓から下を見ることができなかった。
デクがひどく慌てていたことだけは覚えている。
そのあとすぐに救急車のサイレンの音が聞こえ、学校では大騒ぎになった。
俺とデクは先生に呼び出された。
「葵が…よろけて…落ちそうになったノートをキャッチしたら…落ちた…」
自分のせいなのに俺は嘘をついた。
葵が落ちたのは自分のせいだと言い出せなかった。
横にいたデクは葵が落ちたことに相当ショックを受けていて、まともに喋れる状況ではなかった。
葵が無事だと聞いて俺は安心した反面、罪悪感に襲われた。
『あなた…誰?』
病室に入ったとき、頭に包帯を巻いた葵が俺に言った最初の言葉だった。
あぁ…これが俺に対する罰なのか。
葵は俺のことを忘れてしまっていた。
デクやクラスメイトのことはちゃんと覚えているのに、俺だけが記憶からすっぽりと消え去ってしまっていた。
放課後、いつものように葵と帰るために教室まで迎えに行った。
しかし教室には葵の姿はなかった。
教室にいた生徒に聞けば既に帰ったと言われた。
今まで勝手に帰るなんてことは一度もなかった。
電話をかけてみても繋がらない。
「っ…なんでだよ…」
たまたま何か急用ができて電話に出れないだけかもしれない。
だけど、どうしてだか胸騒ぎがする。
その日葵から連絡が返ってくることはなかった。
次の日、ランニングをするために朝早く家を出た。
朝早いため辺りは静かだった。
近所を一周して家へ再び戻ってきたとき、家の前に人影があった。
「葵?」
制服姿の葵がいた。
一度止めた足を再び進め駆け寄った。
『き、昨日は勝手に帰っちゃってごめんね。急用があって…スマホも壊れちゃって』
「あ…あぁ…」
目線を合わせず、下を向いたままの葵はどこか様子がおかしかった。
中に入って話そうと提案したが葵は首を横に振った。
『あのね…もう私に優しくしなくていいよ』
「あ"?」
『私大丈夫だから。無理して一緒にいてくれなくて…いいから…』
少しだけ見えた葵の目は赤かった。
何を言ってるんだ。
少し震えた声の葵は俺に背を向けて逃げるように走り出した。
「おい!」
その後を追いかける。
勿論葵にすぐ追いついた。
手を掴んで捕まえたときには葵の目は涙であふれていた。
「…もしかして…戻ったのか?記憶…」
ついにこの日がきてしまったのか。
いつかは葵も本当の事を知る日がくるのはわかっていた。
なんて謝ればいい。
なんて声をかけるべきだ。
頭の中でいろんな言葉が溢れるがどれも纏まらない。
涙をぐっと堪えた葵は首を横に振った。
『…聞いた。事故のこと…かっちゃんが私に優しくしてくれるのは…罪悪感があるからだって…』
「は?」
『責任感じて…私に優しくしてくれてるって…なのに私は…何も知らないで甘えて…好きって思っちゃって…』
堪えていた涙が耐えきれず頬を伝ってこぼれ落ちる。
「ちげぇよ!!」
『!?』
「確かに俺があの時…ノートを窓から投げなきゃ事故なんて起きなかった…罪悪感もあった…けどお前に優しくしてたのは…それだけじゃねぇよ」
葵の震えていた手がいつの間にか伝染して、俺の手が震える。
自然と涙が込み上げてくる。
「俺はずっと葵が好きだから…罪悪感で葵に優しくしたつもりはねェ」
『えっ…好き…?でも…何回も私の事…』
「言えなかったんだ…許されねぇことをしたのに…本当のことを話さないといけねぇのに…真実を知って葵が俺から離れていくのが怖くなって話せなかった。そんな俺が葵に好きだなんて言う資格はねぇ」
葵が何度も好きだと俺に言う度に嬉しかった。
けどそれは逆に心が締め付けられるように苦しかった。
本当なら葵に近づいてはいけない。
だけど俺はそれができなかった。
諦められなかったのだ。
それぐらい葵が好きなのだ。
目の前に立っていた葵がゆっくりと距離をつめ、優しく俺を抱きしめた。
「…葵?」
『私…かっちゃんのこと好きだよ。
かっちゃんも言えなくて辛かったんだね…気づいてあげられなくてごめんね』
「なんでお前が謝るんだよ…俺が悪いのに…」
葵はゆっくりと体を離した。
『確かにノートを投げたのはよくない!けど…落ちたのは私が勝手に飛び出したせいだよ』
覚えてないけどね、と苦笑いをした。
さっきまで溢れていた涙はすっかりとなくなっていた。
葵は俺の両手を握った。
『資格とか…そんなのいらないよ。私はかっちゃんが好きって思ってくれてること知って、すごく嬉しいもん』
握られた手は温かかった。
震えていた自分の手はいつの間にか治まり、落ち着いていた。
「ははは。やっぱお前すげぇな」
『ん??』
「俺が謝ってんのに…励まされるとか」
『だって本当のことだし!』
俺は葵を引き寄せた。
自分より小さな体はすっぽりと腕の中に納まった。
「知らねぇぞ。記憶戻って嫌とかナシだからな」
『もちろん。記憶がなくなる前もかっちゃんのこと好きだったと思うし』
「なんで分かんだよ」
『勘!』
俺の腕の中で顔をあげ頬を赤らめ笑う葵に心臓が速く動く。
つられて自分の頬に熱が集中する。
きっと葵と同じように顔が赤くなっている。
「俺は無理して一緒にいるわけじゃねぇ」
『うん』
「葵が好きだ」
もう伝えることはできないと思っていた言葉。
葵の頬もさっきよりも赤くなっているように見えた。
『私も好きだよ、かっちゃん』
葵の記憶が戻るのかは分からない。
俺の罪が消えるわけではない。
けど俺は今までも、これからもずっと葵が好きだ。
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