嘘ばかりが口をつく(切島)


(※夢主視点)


わたしには好きな人がいる。

『おはよー』
「おはよー葵ちゃん!」
「はよ、如月」
「……」

教室に入って第一声の挨拶。
クラスにいた皆が挨拶を返してくれる。
たった1人を除いて。

「相変わらず挨拶も返してくれんのやね、切島くん」
『…仕方ないよ。わたしがそうしちゃってるんだもん』

席に着くと前の席に座るお茶子ちゃんが小声で話しかけてきた。
少し前の席に座る赤い髪をした彼ー…切島鋭児郎は前の席の上鳴電気と楽しそうに会話していた。

切島…鋭児郎とは幼馴染で小さい頃はよく一緒に遊んでいた。
日が暮れ始めると、決まって高い丘の上に登って一緒に夕日を見ていた。
その頃からずっと鋭児郎のことが好きだった。

『大きくなったら鋭ちゃんのお嫁さんになる!』
「いいぜ!俺が葵もらってやるよ!」

幼い頃は簡単に言っていた。
けれど中学にあがった頃、一緒に登校すると周りからよくひやかされからかわれることが多くなった。
鋭児郎は気にするなと言っていたけれど、その時のわたしには気にしないなんてことはできなくて。
それと同じ時期に鋭児郎は同学年の女子や先輩からよく告白をされていた。
鋭児郎も告白されて断ってはいたけれど嬉しそうにしていて、わたしはずっとモヤモヤしていた。
告白して今の関係が崩れるのが嫌で素直に気持ちを伝えることができない自分にもイライラした。

「葵帰ろうぜ!」
『ごめん。ひとりで帰りたいから。これから行きも帰りもひとりで帰るから』
「なんでだよ?」
『なんでもいいじゃん。関係ないでしょ』

わたしの気持ちも知らず話しかけてくる鋭児郎にもイライラして、つい鋭児郎に酷いことを言ってしまった。
鋭児郎とわたしの距離はどんどん離れ、気持ちを伝えるどころか素直に言葉を交わすことさえできなくなってしまっていた。
口を開けば鋭児郎に対する酷い言葉しか出てこなくて。
今更なんて謝ればいいかわからなくなってしまっていた。
雄英に入って、まさか鋭児郎と同じクラスになるとは思っていなかった。
謝る機会なのかもしれないと思ったけれど話しかけることすらできなかった。



「素直に謝ったら許してくれるよ。切島くん優しいし!」
『それができたら苦労しないんだよ…いざ素直になろうとしたら全く逆のこと言っちゃうんだもん…』
「いっそのこと手紙で気持ち伝えたらどうやろ?」
『手紙も試したけどうまく書けなかった…というか渡した後に顔合わせられない…』

机にうなだれながら鋭児郎をチラッと視界にいれるが、一向にうしろを見る気配はなかった。

結局いい案も解決策も見つからず、あっという間に放課後になった。

「今日の日直、課題のノート準備室まで運んどいてくれ」

帰り際に相澤先生が言った。
幸運なのか不運なのか、今日の日直はわたしと鋭児郎だった。
教卓に積まれた課題のノートの山。けれど一人で持てない量ではなかった。
わたしは一気にノートの山を抱えた。
想像以上に重く、思わず前屈みになってしまった。

(でもこれくらいなら一人で…)

進もうと方向を変えると、急にノートが軽くなった。
顔をあげると鋭児郎がノートの山の半分以上を持っていた。

『わ、わたし一人で行けるからいい…』
「は?お前の力で持っていけるわけねぇだろ」

鋭児郎はそのまま教室から出て行った。
完全に間違えた。
維持張ってる言葉じゃなくて“ありがとう”って言うべきだった。
なんでまたあんなこと言ってしまったんだろう。
溜息をつきながら鋭児郎と距離をとりながらも後を追うように準備室へ向かった。


準備室へ向かう途中の空き教室でふと声が耳に入った。

「好きです。付き合ってください」

告白現場だ。
隠れる必要はなかったのに思わず教室の扉に隠れた。
このまま気にせず準備室へ向かえばよかったと後悔した。
中を覗くとそこには見覚えのない女子生徒と、ノートを抱えた鋭児郎が向かい合っていた。
中学生の頃のモヤモヤがまた蘇ってくる。

嫌だ…

嫌だ…

嫌だ…

「…葵?」

ひさびさの声で呼ばれた名前に顔をあげると、教室から出てきた鋭児郎がいた。
さっきまで告白していた女子生徒はすでにいなかった。

「何してんだよ。こんなとこで」
『…そっちこそ。ノート運ばず何してんのよ』
「…別に。お前には関係ないだろ」

心が酷く痛んだ。
散々わたしが言ってきた言葉がこんなにも心が痛むものだったなんて。
鋭児郎にとって告白されたことなんて、わたしには関係ないって思われていることがこんなにも辛いだなんて思ってもいなかった。
目頭がじりじりと熱くなる。

『あーそうですね!あんたの告白されてる現場なんてどーでもいいし!』

あぁ…まただ。

『可愛い女の子に告られてヘラヘラしちゃってばっかみたい』
「おい。いい加減にしろよ」

なんでこんなにも素直になれないんだろ。
“ごめんね”って、“本当は好きなんだ”ってなんで言えないんだろう。
あの女の子みたいに、たった一言でもいえばいいのに。

『鋭児郎なんて…やっぱ…大嫌い…!』

一番言ってはいけないことを言ってしまった。
その場に居続けることができなくて、わたしはノートをその場に置いたまま走り出した。

走って、走って、違う棟の屋上に来ていた。
涙が溢れて止まらない。
完全に鋭児郎に嫌われた。
戻れるものなら中学の頃に戻りたい。戻ってもう一度鋭児郎と仲の良かった頃をやり直したい。
溢れる涙を抑えられないままその場にうずくまった。



「葵」
『!?』

頭上から鋭児郎の声がした。
気のせいかと思ったけれど確かに目の前には自分とは違う人影があった。
つんつんとした髪の影、間違いなく鋭児郎だ。

「さっきの言葉、本気かよ」
『……』

またいらないことを言いそうで、わたしは口を開けなかった。

「俺には葵が俺の事好きで告白されてるとこ見て嫉妬したって言ってるように聞こえたんだけど」
『え…』
「勘違いだったらすげぇ自惚れだけど。でも…だから泣いてるんじゃねぇの?」

鋭児郎の言葉に思わず顔をあげ振り向いていた。
溢れた涙がゆっくりと頬を伝って落ちた。
わたしは黙ってゆっくりと頷き、震える声で口を開いた。

『ずっと…ずっと好きだよ…鋭児郎を好きじゃない日なんて…なかった…』

今までで一番素直な言葉だった。
きっと、神様がくれた最後のチャンスだと思った。
これでこっぴどく振られても仕方ない。散々酷いことを言ってしまったんだ。もう仲が良かった日には戻れないんだから。
涙が次々と零れて視界が揺らぐ。
涙を拭おうとしたとき、力強いのに優しく抱きしめられた。

『え…いじろ…?』
「はぁ…マジかよ。ずっと両想いだったのかよ…」
『…え?な…なん…て?』

聞き間違いだろうか。両想い?
鋭児郎はゆっくりと体を離すと、しゃがみこんだまま向かい合った。

「葵さ、中学の途中から急に冷たくなってさ…てっきり好きな奴ができて、俺と仲良くしてるとこ見られたくないのかと思ってたんだけど」
『は!?それは鋭児郎が女子とか先輩とかに告白されて嬉しそうにしてたからでしょ!
わたしが名前呼んでも何ともないくせに、他の女子から名前呼ばれるだけでニヤニヤしてるし…ほんと腹立つ!』

気づいたら思っていたことをベラベラと言い放っていた。
それを何故だか鋭児郎は少し嬉しそうに聞いていた。

「やっと素直な本音、言ってくれたな」
『あっ…』
「ごめん。今まで気づかずに酷い態度で返して…漢としてやることじゃなかった」
『え、鋭児郎が謝ることじゃないでしょ!元はわたしが酷いことしたんだから…』

ふと目が合った。
赤い瞳にわたしが映っていた。
綺麗な赤い瞳に吸い込まれてしまいそうだった。
目を閉じると唇にやわらかい感触がした。
ゆっくり目を開けると、目の前には頬を赤くした鋭児郎の顔があった。

「な、仲直りな。これで」
『う…うん…』

思わず唇を指で触れてしまう。
鋭児郎も黙り込んでしまい、沈黙が流れた。
気まずい雰囲気をなんとかしたくて、咄嗟にわたしは口を開いた。

『でもよくここにいるって気づいたね。別の棟の屋上なのに』
「お前ならここにいると思ったんだよ」
『え?』
「子供の頃、よく夕日がよく見える丘に一緒に行っただろ?だからさ、この棟の屋上は夕日が一番よく見えるしいるんじゃねぇかと思ったんだよ」

日がだんだんと落ち、辺りがオレンジ色に染まっていた。
忘れられたと思っていた。
子供のころ、わたしが鋭児郎に告白したあの場所のことを。

「俺、葵のことずっとずっと好きだ」

夕日のせいなのか照れているからかは分からないけれど、鋭児郎の頬はさっきよりも赤く見えた。

「もっと成長して、プロヒーローになったら…俺の嫁にきてくれるか?」

まるであの日の再現のようだった。
今度は鋭児郎からのプロポーズ。涙も気づけば止まっていた。

『仕方ないからなってあげるよ。鋭児郎の面倒みれるのわたしぐらいだし』
「ったく。素直になれよ」
『こ、これでも素直だし!』

夕日に見守られるように、またそっと唇を重ねた。

「好きだよ、葵」
『…っ!!わ、わたしも…嫌いじゃないし…』

わたしが完全に素直になれる日はまだ少し先の話。

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