02_知らない人


人気のない校舎裏に着くと爆豪は足を止め振り返った。後ろを着いてきていた彼女も歩みを止める。どうして呼び出されたのかも分からない様子だが、口は開かず爆豪から説明されるのを待っていた。

「テメェどういうつもりだ」
『どういうつもり・・・とは?』
「ふっざけんじゃねぇ!!テメェ何で黙って消えやがった!!」

目の前に現れた転入生は紛れもなく幼馴染の如月葵だった。
お互いにずっと隣にいようと約束を交わした翌日、葵は姿を消した。園の先生や友達全員に聞いて回ったが1人として葵の居場所を知らなかった。勿論葵の自宅にも行った。だが既にもぬけの殻になっており何も情報は得られなかった。
何かの事件に巻き込まれたのかもしれない。そう思って警察やヒーローに相談したが相手にはしてもらえず年月だけが経っていた。

「俺がどれだけ心配したか分かってんのか!」

黙って消えた怒りと、無事だったことへの安心とが入りまじり少し涙が目に浮かぶ。
しかし爆豪の心配を余所に葵は表情を変えることなく言い放った。

『誰の事を言っているの?私はあなたを知らない』
「は?何言ってんだ・・・」
『用はそれだけですか。授業に遅れるので帰ります』

爆豪に背をむけ来た道を引き返そうとした。思考が追いつかない。だが体は勝手に動いていた。
帰ろうと足を進める葵の腕を掴みこちらに向き直らせると、爆豪は葵の唇に自分の唇を重ねた。
ゆっくり開いた瞳に映ったのは、無表情のままの葵の顔。

『気は済みましたか』

呟くように言うと葵は再び爆豪に背を向け教室へと歩いて行った。
1限目のチャイムが鳴り響く中、取り残された爆豪は拳を強く握りしめ、歯を食いしばった。

「…っくそが」