05_地下室で


翌日葵は学校に来なかった。心配したクラスメイトは連絡を入れようかと思ったが誰も葵の連絡先を知らなかった。

「爆豪くんは何でか知らん?」
「あ”ぁ”?何で俺に聞くんだよ」
「だって爆豪くん葵ちゃん気にかけてたみたいやから何か連絡いってるんかなーって」
「知らねぇよ。どうでもいいことなんだからよ」

葵の名前をだしたときの爆豪はどこか不機嫌そうだった。だが表情は悲しそうに思えた。
顔を伏せてしまった爆豪に麗日は1人会話を続けた。

「昨日帰りちょっとおかしかったんよな・・・やっと笑ってくれたと思ったら私たちとか爆豪くんは眩しすぎるとか・・・ひどく汚れてるとか・・・」

その言葉に爆豪は伏せていた顔をあげた。『意味は聞かなかったけどね』と付け足したところでチャイムが鳴り響き教室に教師が入ってきた。全員が席につき教科書やノートを広げる。爆豪は横目で誰も座っていない葵の席を見た。




薄暗く外の音が聞こえない地下深く。歩くたびに靴の擦れる音が響きわたる。
長い廊下の先には扉がひとつ。足を止めるとノックをするより先に中から声が聞こえた。

『101 コードネーム”クロ”任務報告にきました』

扉の前で答えると扉が開いた。扉の先は大広間になっており長いテーブルに椅子がいくつも設置されている。
その1番奥にマントに包まれた性別の分からない人間が1人頬杖をついて座っていた。
後ろにはスーツ姿の青年が背筋を伸ばし立っていた。座っている人物の代わりにか彼が声を出した。

「報告をお願いします」
『雄英に潜入して1か月、敵との接触はなし。接触してくる気配もありません。よってこれ以上雄英にいる必要はないかと思われます』
「・・・報告はそれだけか」

座っていた人物がようやく声を出した。頻繁に来ているわけではないがいつきてもここは空気が重く好きにはなれない場所だった。その原因は目の前で座っている人物が原因なのかもしれない。どこか威圧的で逆らえないという意識が強く纏わりついてしまっている。

「下がれ」
『ゆ、雄英にはもう・・・』
「それはお前の判断だろう。これは組織の判断だ」
『・・・・・・』

何もいう事が出来ず一度頭をさげ大広間を出た。威圧されたから従うのではない。言われたことが正しかったのだ。
雄英にいたくないという理由は自分の都合だ。これ以上いればきっと苦しむことになる。それを恐れているのだ。この地下のように薄暗い場所で生きてきた。雄英のような光の当たる場所はあまりに光が強すぎて自分が消されてしまうように感じた。
薄暗く長い廊下を歩いていると、後ろから足音が聞こえた。振り返れば先ほど大広間に立っていた青年がこちらへと歩み寄っていた。足音が聞こえるまで彼の気配は一切感じなかった。素性は知らないが恐らくかなりのやり手だ。

「雄英、やめられたいのですか」

彼は優しい声のトーンで問いかけた。すべてを見透かされてるような感じがしてうまく嘘がつけない。
表情を変えることなく黙ったままの葵を見て彼は口を開いた。

「あの方は任務と言ってあなたを潜入させましたが、私は雄英にいることがあなたにとっていいことだと思いますよ」
『いいこと?』
「本来あなたの歳であれば普通に高校に通って友達を作って、学生らしい日常を送っているはずです」

どれもあまりぴんとはこなかった。それほどまでに今までの生活とはかけ離れていた。
学校に通うのも自分に与えられた任務だから。任務でなければ学校に行くなど考えられない。

「辞めたい、というのは大切だと思い始めた証拠ではないですか」
『・・・これは任務だ。それ以外の感情はないし必要ない。辞めたいと思ったのも本当に意味がないと思ったから』
「そうですか・・・でも、時に感情は必要だと私は思いますよ」
『どの口がそれを言うんだか。そうさせたのはあなたたちでしょ」

彼はそれ以上何も言わず、ただ黙って歩いていく葵の背中を見つめていた。

時刻はお昼を回っていた。今日で辞めるつもりでいたために学校に何も知らせずだった。
任務だからと言い聞かせ、地下にある自室で雄英の制服に袖を通した。鏡の前で雄英の制服を着た自分を見つめる。何度見ても見慣れない姿。近くに無造作に置いてあったスクールバックを手に取り自室を出た。
太陽は高く上り薄暗いところにいたせいもあって眩しかった。学校へと向かう予定だったが午後からは特別授業で少し離れた場所にある施設で個性の特訓をすることを思い出し、停まっていたいたタクシーに乗り込んだ。