06_襲撃と


雄英所有の施設につくと既に個性の強化特訓が行われていた。壮大な爆発音が1番に耳に入ってくる。それが誰のものなのかみなくてもよく分かる。
入口近くに立っていた相澤先生に近寄った。勿論遅刻した理由を問われたが本当のことを言うわけにもいかず、体調が悪かったと嘘をついた。連絡をよこせと怒られたがそれ以外の罰はなく少しホッとした。
皆はヒーローコスチュームで特訓をしているが自分にはそんなコスチュームはなく、鞄に詰め込んでいた体操着に着替えた。

「あ!葵ちゃん!!」

葵に真っ先に気づいた麗日は声をあげて駆け寄ってきた。その声に気づいた他の生徒もそれぞれの場所から声をかけてきた。ほとんどが心配していたという内容のもので、その言葉にまた心が痛んだ。

「すっごい心配したんよ?友達なんやから何かあったらすぐ言ってよ?ね!」

麗日の言葉がずしりと重かった。眩しくすぎて握られた手を握り返すことができなかった。
麗日が離れていくと、ふと視線を感じ目をやるとしばらく会話もしていない爆豪と目が合った。
爆豪はすぐに目は反らし特訓に戻っていった。

自分の個性にこれ以上特訓はいらなかった。というよりもこの環境でできるわけがない。誰にも教えていない個性。この個性を知ればきっと皆離れていくだろうー・・・。
そろそろ授業も終わりの時間を迎えようとしていた。それぞれが制服に着替えて帰りのバスに乗って学校へ帰る。そのはずだった。
授業終了の合図を相澤先生が出そうとしていた瞬間、無数の黒い渦が宙に現れた。

「な、なんだ!?」
「全員下がれ!!!!!」

黒い渦から無数の敵。そして数対の脳無が現れた。
相澤先生がすぐさま個性をつかい敵の個性を消していくが、あまりに数が多くとてもじゃないがすべてを塞ぐことはできない。

「こ・・・これってUSJのときと一緒じゃねぇか」

話には聞いたことがある。こことは別の場所で雄英生徒が敵に襲われたということ。その中に死柄木弔がいたということも。
彼の姿は見当たらない。
黒い渦も消えている。だが敵の数は異常だった。

「全員退避し・・・っ」

口を開ける暇も無いくらいに敵は躊躇なく襲いかかってくる。
生徒に交戦許可はでていない。一刻も早くこの場を離れてヒーローに助けを求めるべきだ。
爆豪や轟、切島たちは戦いにいこうとしていたが飯田がそれを必死に止めていた。
出入り口付近に駆け寄る生徒のなかに葵も混じっていた。敵が接触してきた。だが目的の死柄木がいない。これは任務ではない。そう自分に言い聞かせていた。

「きゃぁぁぁぁぁぁ」

悲鳴が聞こえた。よく聞いた高い声。離れた場所で麗日が脳無に襲われていた。
近くの岩は跡形もなく溶けるように消えていた。おそらく脳無の個性だろう。
恐怖からか麗日はしりもちをついた状態で壁まで追い詰められていた。

「お茶子ちゃん!!」

相澤先生が行って間に合う距離ではない。何より他の敵がそれを許させない。
脳無は腕を大きく振りかざした。だがその腕は振り下ろされることはなかった。振りかざした脳無の腕は葵によって取り押さえられ、葵が力を込めた瞬間に脳無は溶けるように跡形もなく消えた。
一瞬の出来事で麗日も他の生徒も何が起きたのか分からなかった。
葵は自分の手を見つめ、一度ため息をついた。

「葵ちゃん・・・?」
『さがってて』

葵の瞳は今までに見たことのないくらい冷たい瞳をしていた。敵ではないのに恐怖を感じた。
麗日は黙って頷くと少し距離をとった。そこからは一瞬だった。次々と敵に触れては敵があっという間に消えていく。
その姿に全員が茫然としてしまった。
恐怖も感じさせず平然と敵を消し去っていく葵を目に全員は声もでなかった。
葵は中でもリーダー格と思われる敵の首を掴み軽々と地面に押さえつけた。

『誰の命令できた?死柄木か』
「し、しらねぇ!!俺らはただヒーローに襲撃かけようって誘われてきただけだ!!」
『そうか・・・』

彼の焦りからみて何も知らないのは本当のことだろう。これ以上彼から聞き出せることはない。そして葵は手に力をこめ個性を発動させた。
その場にいた敵はあっという間にいなくなった。
その光景に生徒だけでなく相澤先生すらも立ち尽くしてしまった。

「おい如月どういうことだ」

全てが終わってからやっと自分がしたことを後悔した。
相澤先生も知らない。知っているのは校長先生だけ。あぁ・・・私の任務は本当にこれで終わりだ。