07 切島くん

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3時間目の授業を終えクラスのみんなは教科書やノートを机の中にしまった。
次の授業のため教科書とノートを新しく取り出すと、それぞれ友達と一緒に教室を出ていく。

(次は移動教室だっけ…たしか資料集がいるって言ってた)

次の授業は歴史。
机の横にかけてあった鞄から教科書とノートを取り出した。
だが肝心の資料集が見当たらない。
机の中もロッカーの中も探したがどこにもなかった。

(わ…忘れた…)

次の授業まであと10分。
他のクラスに借りにいこうと思っても残念なことに借りれるような友達が思い当たらないし、クラスの人に見せてもらえる気もしない。
かといって音の聞こえない私にとって、教科書の類は授業に欠かせない物だった。

(あ…)

ふと思い出したのが爆豪くんだった。
ヒーロー科の教室は普通科と距離はあるが急げば間に合う。
でも持っているかもわからないうえに私に貸してくれるだろうか。
この間の合同演習以来、爆豪くんとは会っていない。
けれど今は迷っている時間はない。
教科書とノート、ペンケースを抱えてA組の教室へ走った。


A組の教室の前までやってきたが人の気配が全くなかった。
大きな教室の扉をゆっくり開けて中を覗いた。

(誰もいない…)

教室はもぬけの殻で一人も生徒はいなかった。
鞄が机にかけられているため学校には来ているはずだけど。
扉を閉めようとしたとき、うしろから右肩を2度叩かれた。
驚いて両肩があがり、持っていた荷物を落としてしまいそうになった。

「A組に何か用か?」

振り返るとヒーロースーツであろう服を着たとがった赤髪をした少年が立っていた。
どこかで見たことがある顔だったけれど思い出せない。

「あ!もしかしてこないだの演習で爆豪と組んでた子?…ってことは聞こえてなくて喋れない?」

手で耳と口に手を当ててバツを作った彼に私は首を縦にふった。
いつもポケットに入れているスマホが今日に限って鞄の中に入れたままだったことに気づき、私は持っていたノートに文字を書いた。

《普通科の願野心です。爆豪くんに用事があって来たんです》

ノートを受け取った彼は頷きながら私の書いた文字の下に返事をスラスラと書いた。

「俺、A組の切島鋭児郎!俺ら今体育館で訓練してて爆豪もそっちにいるんだ。俺は忘れ物取りに来たんだけど…爆豪になんか用だった?」
《歴史の資料集忘れちゃって借りれそうな人が爆豪くんしかいなくて…》

切島くんは私の書いた文字を見て、ノートを受け取ったまま「待ってて」と言うように手を前に出した後、教室に入って行った。
ロッカーの中を探ったあと、何かを取り出しまた戻ってきた。
手には綺麗な資料集を持っていた。
そのまま私に差し出され思わず受け取った。

「俺のでよかったら使って。俺あんま使ってないし!」
《いいの?》
「おう!」

ノートを受け取ると、切島くんが時計を指さした。
あと2分で次の授業が始まってしまう。
私はノートに急いで文字を書いて、ちぎって切島くんに渡した。
最後に頭をさげそのまま走って次の授業の教室へ向かった。

「えーっと…帰りに絶対返すので下駄箱で待ってます…か」