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「爆豪、切島!帰りにワックよっていこーぜ!」
放課後になり上鳴が声をかけてきた。
いつもなら切島が賛同して俺を巻き込み、このままワックへ行くことになる。
だけど今日は違った。
「わり。俺ちょっと用事あるから先帰っててくれよ」
切島が珍しく断った。
「またな」と、鞄を持ってそのまま教室を出て行った。
「んだよアイツ。まさか女でもできたのか?」
「はっ。知るかよ」
「ま、とりあえず俺らも行こうぜ…って先行くなよ!」
鞄を持って教室を出ると後ろから上鳴が追いかけるようについてきた。
何か喋りかけられていたがそれを無視して下駄箱へ向かった。
このまま学校を出てまっすぐ家に帰る、はずだった。
「わりぃ!待たせたな」
先に教室を出たはずのクソ髪の声が聞こえた。
少し足を進め目だけを声のした方向に向けた。
「別に気にしなくていいのによ!」
足がピタリと止まった。
クソ髪と会話をしていたのは、スマホを手に持った願野だった。
スマホの言葉までは見えず、会話の内容まではわからないが、嬉しそうに笑っていた。
「え、切島といるの普通科の願野じゃね?」
「知るかよクソが」
「いやいやいや!こないだペア組んでたじゃんお前!」
あの日の演習以来、願野とは会っていなかった。
避けているわけではなかったが、なんとなく顔を合わせずらいのもあったし、会いに行く理由がみつからなかった。
「あ!移動するぞ!」
「あ"ぁ"!?」
上鳴が俺の鞄を引っ張りながら後を追おうとした。
いつもの俺なら力づくでもその手を振り払っていた。
けれどどうしてだかそれができなくて、足は2人の後を追っていた。
「おいおいおい。なんかあの2人いい感じじゃねぇか?」
「あ''ぁ"?知るかよ」
2人の後を追った先は上鳴が提案していたワックだった。
飲物だけを頼み、2人が見える位置に座った。
上鳴は興味津々にテーブルの陰から様子を伺ってはこちらに伝えてくる。
「お前の好きな奴だろ。気にならないのかよ」
「はぁ?誰が好きかよ!あんな奴!」
持っていたカップを勢いで握りつぶしてしまい、中の飲み物が少しこぼれ出た。
視界の端に映る願野と切島の姿をみてどうしてだか胸がざわついてイライラする。
この気持ち悪い感覚がずっと胸の中で渦巻いて仕方ない。
「ここからじゃあ何話してるかわかんねぇな」
先ほどからスマホを使って二人は会話をしていた。
たまに切島が声に出して反応しているが、基本はスマホで文字を打っての会話だったため、周りの音楽や物音だけで何の話をしているのかさっぱりわからない。
「いいのかよ爆豪。切島に取られるぞ」
「あ″ぁ″?取られるってなんだよ!俺のじゃねぇわ!」
「でも気になるんだろ?」
「…別に」
気にならない、はずだった。
願野が誰とどうしていようが関係ない。
なのに俺は上鳴の誘いを断らず、願野の後を追い今ここにいる。
異常に切島にイライラしている。
今までとは種類の違う苛立ち。
「お前らも来てたのかよ!」
「うぇっ!切島!?」
さっきまで離れた席に座っていた切島が気づけば俺達の席までやってきていた。
近くに願野の姿はなかった。
「お、お前こそ見たぞ!願野と何話してたんだよ」
「なんだ見てたのかよ。今日、資料集貸してそれのお礼ってことでちょっとお茶してただけだぜ?」
「マジかよ。お前いつの間にそんなことしてたんだよ」
切島は平然と何事もなかったように隣の席に座った。
会話の内容を聞いてほんの少しだけ、モヤモヤが晴れたような気がしたが、さっきの2人の光景を思い出すと苛立ちはまだ完全には治まらない。
「…あいつは帰ったのかよ」
「ん?願野のことか?」
「他に誰がいんだよ」
「やっぱ爆豪、願野のこと…」
黙れという意味を込めて上鳴の口を片手で押さえ、続きを言わせなかった。
「あぁ帰ったぜ」
「…そうかよ」
「残念だったな爆豪。願野と喋れなくて」
「あ″ぁ″!?残念じゃねぇわボケ」
ニヤニヤしながら願野の名前を出す上鳴に握りつぶしたカップを押し付け外に出た。
いつまで経っても治まらない苛立ちにグッと自分のシャツの胸元を掴んだ。
「なんだよコレ…」
苛立ちの理由が分からないまま家へと帰った。