13_スキャンダル

急遽学校を早退して撮影に臨んだ日、足を怪我したことにマネージャーにこっぴどく怒られた。
それでも教室で座っているシーンがほとんどだったため特に影響はなく撮影は終わった。
何事もなくその日を終えたはずだった。

数日後、撮影も休みで朝から登校した日の事だった。
教室には既に生徒が何人か登校していて、わたしの前の席のお茶子ちゃんも既に来ていた。
雑誌を広げて梅雨ちゃんと何か話していた。

「心晴ちゃんおはよう!」
『おはよう。何みてるの?』
「これ!見て!!」

体の向きをこちらへ向けると、開いていた雑誌を手に取って見せた。
開いていたページには大きな文字で
≪人気モデル ハル、ライトと熱愛発覚!!?≫
と書かれていた。

『はっ!!?』
「朝からワイドショーでも流れててビックリしたんよ」

見出しの下には“ハル”が同じモデルをしている“ライト”に寄りかかって歩いているような白黒の写真が大きく載せられていた。
≪人気高校生モデルのハルと同じく人気高校生モデルのライトが夜の街をデートしているところを目撃!
2人はこの夏始まるドラマで共演しており、それをきっかけに交際に発展…≫
などとでたらめなことが書かれていた。
確かに“ライト”とはドラマの撮影で現場が一緒だった。
この日はたしかスタッフさん含め、出演者何人かとご飯に行って遅い時間になる前に学生組と付き添いのマネージャーが先に帰ることになった。
足を痛めていたこともあって一瞬ふらついて“ライト”の肩にぶつかってしまったことは記憶にあるが、まさかその瞬間を撮られていたなんて思ってもいなかった。

「なになに?何の話してるの?」

教室に上鳴くんと切島くんが入ってきて、こちらへと近づいてきた。
嘘だらけだとはいえこの記事を切島くんには見られたくなかった。
慌てて雑誌を閉じようとしたけれど、すでに遅く切島くんの表情が曇った。

「あー…これワイドショーでもやってたよな。ファンとしてはショックだよなぁ切島」
『き、きっと何かの間違いだよ!だって…』
「ありがとな来栖。大丈夫だって。確かにちょっとショックだけど俺はファンってだけだし」

切島くんは笑って見せた。
いつもの明るく元気をくれる笑顔とは違う悲しげな笑顔。
これは誤解だよ、付き合ってなんかない。そう言いたかった。
けれど“わたし”が言ったところで励ましているようにしか聞こえない。

「ハルも華の女子高生だもの。恋愛ぐらいするわ。元気だしてちょうだい切島ちゃん」
「そ、そうだよ!長続きせんかもしれんし!」
「みんなして励ましてくれてありがとな。ほんと大丈夫だって!」

心が締め付けられる。
切島くんが“ハル”のことを恋愛感情として好きだと聞いて、どこかホッとしていた自分がいた。
“心晴”としてのわたしを好きじゃなくても、“ハル”でいるわたしを好きでいてくれることで切島くんの心が他の人にいくことはないと心のどこかで安心していたのだ。

その日の切島くんはいつも通りを振舞っていたけれど、元気がないように見えた。

昼休み、スマホにマネージャーからメッセージが数件入っていた。

≪報道知ってる?≫
≪この間のご飯のときの写真撮られてたわ≫
≪事務所近くにも記者が何人かうろついてる≫
≪時間できたら電話して≫

わたしは使われていない教室に入ると、マネージャーの番号をタップした。
コール音が数回した後にすぐにマネージャーが電話に出た。

【もしもし?ハル!?大変なことになってるわよ】
『うん知ってる。雑誌に載ってるの見た…なんであんな写真…』
【事務所からも否定のFAXを流す予定だけど、当分は記者が張り付いてるわ】

マネージャーの話だと既に事務所付近をうろついているカメラマンがいるのだとか。
わたしはまだ駆け出しに近いようなモデルだが、相手の“ライト”というモデルは子役として俳優業をしていたこともあり、わたしと違って人気有名モデルだった。

【向こうの事務所も否定はしてくれると思うんだけど、落ち着くまで学校には行かない方がいいわ】
『え?なんで??』
【あなた変装して通っている学校も隠してるのよ。変装してるところがバレる可能性が高いわ】
『たしかに…』
【とにかく、今日は事務所から離れたところで変装していつもの場所にきて、いいわね】

マネージャーとの通話が終わると同時に、チャイムが鳴った。
どれぐらいの間、学校に通うことができないのだろう。
切島くんの元気のない姿のまましばらく会えなくなるのは辛い。
だけれど、わたしにはどうすることもできなくて、声をかけることすらできないままその日は終わった。