15覚悟

スキャンダルから数日、互いの事務所が否定の文書を公表したことによりだいぶ記者の目も少なくなってきた。
SNSではライトのファンがまだ容赦なくわたしを叩いているようだったが、仕事に影響をださないようにとしばらくスマホやネットは見ないようにしていた。

「くれぐれも気をつけるのよ」
『分かってるよ。それじゃあまた放課後ね』

マネージャーの車から来栖心晴の格好をして降りた。
ようやく学校に通えるぐらいまで落ち着いたのだ。
制服もブレザーを脱ぎ、半袖シャツでの登校に変わっていた。
久しぶりにスマホを開くと知らない人からのメッセージ通知がきていた。

《切島だけど、麗日からLINE聞いた》
《休み続いてるけど大丈夫か?》
《何かあったら言ってくれよ!》

3つに分けて送られていたメッセージを何度も読み返した。

『切島くん…心配してくれてたんだ』

《大丈夫だよ。今日から学校行くから!》
《心配かけてごめんね。ありがとう》

数十分後には会えるけれど、メッセージを打ち最後に猫のスタンプをつけて送った。
そっとスマホの画面を決してカバンの中へとしまった。
切島くんからのメッセージに鼓動が高鳴る。

『だめ…忘れなきゃ…』

わたしは深呼吸をした。
切島くんに対するこの気持ちは忘れなければいけない。
今まで出会ってからずっと抱いてきた気持ち。いつか実ればいいと淡い期待を抱いてきたけれど、今回のスキャンダルで思い知った。
わたしは切島くんに恋をしてはいけない。
切島くんは将来立派なヒーローになる。
そんな彼の足を引っ張るわけにはいかない。
肩にかけたカバンをぎゅっと強く握った。


学校に足を踏み入れると、2週間ぐらいだというのに何ヶ月も来ていなかったかのような感覚になった。
生徒の登校時間と重なり、他の学科の生徒も大勢いた。
A組の教室までいくと、懐かしい賑やかな声が聞こえてきた。
扉を開けると中にいた生徒が一斉にこちらに目を向けた。

「心晴ちゃん!!」

1番に声をかけて寄ってきたのはお茶子ちゃんだった。
つづけて梅雨ちゃんや他生徒も声をかけてきた。

「心配しとったんよ!もう大丈夫なん?」
『うん。大丈夫だよ。えと…家の用事と風邪とが重なっちゃって長く休むことになっちゃって。心配かけてごめんね』

本当のことは言えず、一番後ろの席まで向かった。
机の上にカバンを置き椅子に座ったとき、教室の扉が開いた。

「来栖!」

心臓が跳ね上がった。
その声を聞くと自然と鼓動がはやくなる。

『切島くん、LINEごめんね。携帯見れてなくて。もう大丈夫だから』
「そ、そっか!ならよかった!」

わたしは想いを断ち切るように、手短に伝えた。
優しい切島くんのことだ。きっとすごく心配してくれたのだろう。
少しほっとしたような顔をしていたが、その反面どこか悲しいような顔をしていた。

『お茶子ちゃん、休んでた分のノート見せてもらってもいい?』
「え、うん。ええよ」

これで切島くんとの会話は終了だというように、わたしは目線を前に座るお茶子ちゃんに移した。
何か言いたそうだったけれど、わたしの態度に気づいてか切島くんは何も言わず自分の席へ戻っていった。
チクッと胸が痛んだ。



「来栖!飯いこうぜ!」
『ごめん。今日はお茶子ちゃんたちと食べるから…』
「…わかった!じゃあ明日はどうだ?」『明日も…無理かな』

本当だったらすごく喜んでいたところだ。
けれどわたしは何度も忘れろと心の中で言い聞かせた。
これ以上一緒にいればきっと想いが抑えられなくなってしまう。
わたしは逃げるようにその場を去った。