17_俺の気持ち

学校に着くと2週間近く学校に来ていなかった来栖が登校していた。
自然と足は来栖の席に向かっていて、声をかけた。
けれど返ってきた言葉がどこか違和感を感じた。
よそよそしいというか、友達との会話というよりも赤の他人との会話のようだった。
何で休んでいたのかとか聞きたいこととか話したいことがいっぱいあった。
けれど来栖は目の前の麗日と喋り始めた。
まるで俺との会話はこれ以上しないとでもいうかのように。

(俺…なんか変なこと言ったか?)

じっと立っているのも不自然だったため、自分の席へと戻った。
来栖は麗日と楽しそうに会話をしている。

(気のせい…かな)

けれどもそれは気のせいではなかった。
昼ごはんに誘ったり、演習のペアを組もうと誘ってみたが他の人と組む約束があるからと、全て断られてしまった。
それだけならまだよかったのだが、昼休み話しかけにいこうとすれば避けるように来栖は席を立ってどこかへ行ってしまう。
そんな日が続き、気づけば来栖と話せないまま1週間が経っていた。

「はぁぁぁぁ…」
「うっせぇクソ髪」
「どうした切島。最近ずっと溜息ついてるぞ」

昼休み、いつものように爆豪や上鳴、瀬呂たちと昼飯を食べているときだった。
今まで溜め込んでいた溜息が漏れた。
手に握っていた飲み終えた牛乳のパックを握りつぶして机に顔を伏せた。
菓子パンを食べながら話を聞いていた上鳴が、何かに気づいたかのように手を止めた。

「わかった!来栖のことだろ!」

来栖の名前を聞いただけで、あげかけた顔がぴたりと止まった。
ビンゴ?と上鳴はどこか得意げな顔で覗き込んできた。
上鳴の向かいに座っていた瀬呂も納得したようにうなずいた。

「最近すげー避けられてる…気がする」
「お前なんかやらかしたのか?」
「そんな覚えは全くない…」

むしろこの間出かけたときに嫌いじゃないと言われたばっかりだ。
でもそのあとに何かを言いかけて誤魔化された気はしたけど、本当は大嫌いだとか言いかけたのだろうか。
考えれば考えるほど悪い方向に考えてしまい、また大きなため息をつく。
向かいに座る爆豪がまた舌打ちをする。

「なら聞きに行けばいいだろうが」
「聞きに行きたくても避けられるんだって…」
「テメェがそんなことぐらいで諦めるンかよ」
「爆豪…」
「珍しいな、爆豪が人にアドバイスするとか」
「あ″ぁ″?」

爆豪に言われると何故だか自信がもてるから不思議だ。
本人は至って当たり前のことを言っただけなのだろうが、俺にとってはその一言がすごく助けになった。

「つーか切島、いっそのこと告白しちまえばいいんじゃねぇの?」
「はっ!?」

食べる手を止めていた上鳴が、再び手を動かし口に持っていた菓子パンを含んだ。
同調するように瀬呂もまた頷いた。

「な、なんで俺が告白って…」
「え?だって切島、好きなんだろ。来栖のこと」
「もしかして自覚なかったのか?」

上鳴に言われた言葉がストンと胸に落ちた。
来栖は友達だ。
けれど胸のどこかでモヤモヤが邪魔をして、友達という言葉が気持ち悪い。
来栖といると楽しいし、本当の自分でいられる。
この間、特に買う物なんてなかったけれど来栖を見かけて一緒にいたいと思ってわざと嘘の理由をつけて買い物に行った。
別れ際に俺は自分でも何を言おうとしたのか分からない。
口が自然と動いて止まった。

“来栖のことが好き”

上鳴の言った言葉がモヤモヤを掻き消して胸にきちんと収まった。
それが心地よい。
あの日言いかけた言葉はきっとこれだったんだ。

「男ならさっさと告白してフラれてこい」
「フラれるってな…」
「切島に抜け駆けされるの悔しいからな」

冗談交じりで話す上鳴と瀬呂に俺はどこか晴れた気持ちで自然と笑った。