12_お前の時間

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授業が終わり切島や瀬呂に冷やかされながらも上鳴は機嫌よく教室を出て行った。
昼休みに話していた勉強会のために神治に会いに行ったのだろう。
このまま2人はヨリを戻してしまうのだろうか。
上鳴の様子を見ていれば、その可能性も否定できない。
何もできずただ遠くから見ているだけの自分が腹立たしい。
そう思うなら行動を起こせばいい。
けれども体が上手く動いてくれない。
昔から個性にも恵まれて失敗なんてしなくて、大抵なんでも上手くいってきた。
だからこそ成功する可能性の低い行動を起こして失敗するなんてことは、俺のプライドが許さなかった。


気づけば俺は机に倒れ込むようにして眠ってしまっていた。
目が覚めた時には日が落ち始め、夕日が教室を照らしていた。

「…チッ。無駄な時間使っちまった」

机の横にかけていた鞄を持ち上げ、まだ重たい瞼をこすりながら教室を出た。
教室を出ると思い出すのは神治と上鳴のことだった。
あの2人はどうなったのだろうか。
考えても仕方ないことなのに頭の中はそのことでいっぱいだった。

生徒が下校した後の下駄箱はいつの日かの朝のように静かだった。
デジャブかと思うような軽い足音が聞こえた。
顔をあげるとまた目が合った。

『あ、爆豪くん。今帰り?』

あの日の朝と同じだった。
ただ違うことは目が逸らされなかったことと、声をかけられたことだった。

「あぁ…あ"?お前…」

何か違和感があると思えば、朝まで固定されていた神治の左腕から包帯が取れていた。
「気づいた?」と彼女は左腕を肩の高さまであげると、手を閉じたり開いたりしてみせた。

『リカバリーガールに治療してもらってもうほとんど治ったんだよ』
「そう…か…」

俺のせいで怪我をした手。
治って安心した、はずだったのに。
神治に会うための口実がなくなって素直に喜ぶことができなかった。
最初に言葉を交わしたときよりもビビらなくなった神治は慣れてきたのか、俺が靴を履き終えるのを待っていた。

「アホ面はどうしたんだよ。一緒だったろうが」
『アホ…あぁ電気?』

上鳴の事を下の名前で呼ぶことにイラッとした。

『先に帰ったよ。私はリカバリーガールのところ寄らなきゃいけなかったから』
「そう…か」

自然と隣を歩く神治は夕日のせいか少し頬が赤く染まっているように見えた。
上鳴に告白されたのか、返事はしたのか、聞きたいことで頭が埋まっていく。
けれどもその問いは口に出すことができず、喉で止まっては引き下がっていった。

『そ、そういえばもうすぐ体育祭だね!ヒーロー科は全員参加なんだよね』
「あぁ。お前はでねぇのか」
『私は戦えないし…当日はリカバリーガールの手伝いかな』

サポート科も自分の作品をアピールするためにほとんどの生徒がでるのだという。
けれども神治の個性は治癒。
治癒の個性自体が珍しく体育祭でアピールせずともプロから声はかかりやすいとどこかで耳にしたことがある。

『爆豪くんの個性は強いから1位とれそうだね』
「あったりまえだ。俺が1位獲るに決まってるだろうが」
『電気も優勝するって意気込んでたなぁ。優勝したらお昼ご飯奢ってあげる約束までしちゃった』

神治が上鳴の名前を出す度に俺の胸は締め付けられるように苦しくなると同時にイライラする。
1位を獲るのは俺だし、神治にそんな約束まで取り付けていることにまた俺は上鳴に後れを取っていると思うと更に苛立った。

『もう家すぐそこだからここで大丈夫だよ。腕…治ってるのに送ってもらってありがとう』
「…別に礼言われることしてねェわ」

俺は来た道を戻り始めた。
次に神治と会えるのはいつだ?こうして話をできるのはいつだ?
神治の連絡先も知らない。
接点が無くなってしまった今、クラスも違えば会いにいく理由もなくなってしまった。
このままでは上鳴とうまくいくところを本当に見ているしかなくなってしまう。
戻り始めた足をピタリと止め180度向きを変えた。
自分の変なプライドなんてどうでもいい。
今ここで行動しなければ格好悪いし絶対に後悔する。

『ど、どうしたの?』

帰っていったはずの俺がまた戻ってきたことに驚き首をかしげた。

「…俺は絶対1位を獲る。だから……

 1位獲ったらお前の1日を俺にくれ」