***
チッチッチッ
時計の秒針が動く音が鮮明に聞こえる。
閉じていた目を開けて壁にかけてあった時計を確認すれば、針は6時30分を指していた。
『一睡もできなかった…』
昨日いろんなことがありすぎて私の頭の中はパンク寸前だった。
朝一番に爆豪くんが家の前にいただけでもお腹いっぱいな出来事だったのに、元彼である電気と再開してよりを戻そうと言われ、トドメに爆豪くんから私の時間をくれと言われた。
そのときの光景が頭の中でループして離れず、ベッドの中に入ったものの眠りにつくことができないまま朝を迎えてしまった。
(でも…なんで爆豪くんはあんなこと言ったんだろ)
電気のよりを戻そうと言ったことは分かる。別れ方が自然消滅みたくなってしまったから。
でも爆豪くんは違う。
怪我のお詫びも断りはしたもののお昼ご飯を奢ってもらったり、荷物を持ってもらったりしたからこれ以上はないと思うけれど。
それにあの時、どこか様子がおかしかった様にも見えた気がする。
『考えてもわからない!』
モヤモヤしたまま私は制服に着替え、足早に家を出た。
学校に着くとサポート科の皆は体育祭に向けてのアイテム作りに没頭していた。
私の仲のいい友達も同じく、私が来たことに気づかないぐらいアイテムの設計図を作っていた。
「んー…ここはこうした方がいかな」
昨日のことを相談しようかと思っていたが、一生懸命になっている彼女の邪魔になってしまいそうで話しかけるのをやめた。
体育祭まであと数日、どのクラスもアピールの場を逃さないため力が入っていた。
昼休みになってもクラスメイトも友人も、自分の作業に没頭していた。
邪魔にならないようにと私はお弁当を持って裏庭へと向かった。
音のない静かな裏庭に出る階段に座りお弁当を食べ始めた。
「あれ、癒月?」
顔をあげると頭上から覗き込んできた電気が立っていた。
ニッと笑うと電気は空いている私の隣に腰かけた。
「1人で食べてんの?」
『うん。皆体育祭にむけて発明で忙しいから、邪魔しないようにと思って』
「そっか。サポート科も忙しいんだな」
『電気は?なんでこんなとこいるの?』
「ん?なんかここに来たら癒月と会える気がしてさ」
手に持っていた袋から菓子パンや総菜パンをいくつか取り出し電気は食べ始めた。
やっぱり電気は変わっていない。
私が1人でいるとき必ず隣にいてくれる。
昨日の今日で少し気まずいはずなのに、それでも私に話しかけに来てくれる。
話しているうちに予鈴が鳴り、電気は食べていたパンの残りを口に詰め込んだ。
「俺、本気で優勝狙うから見ててくれよ」
『う、うん。わかった』
最期にニッと笑うと電気は走ってヒーロー科の教室へと戻って行った。
よりを戻そうと言われて、私はまだ返事をしていない。
電気が嫌いなわけじゃない。むしろ人として好きなほうだと思う。
けどこれが恋愛としての好きなのかわからない。
午後の授業は実習で各々がサポートアイテムの改良などを行っていた。
私はといえば一睡もできていなかったせいで頭が全く働かず、保健室のベッドに横になっていた。
頭を使い過ぎたせいか、一睡もできていなかったせいか、すぐに眠りについてしまった。
目が覚めたとき、既に日は暮れ始めていて時刻は6時を過ぎようとしていた。
『やば!寝すぎた…』
教室に戻ればもちろん生徒は誰もいなかった。
校舎内自体が静かで、おそらく残っている生徒は私だけなのだろう。
物音ひとつしていない校舎内は歩くだけでも足音が響いた。
鞄を持って校舎を出たとき、足音とは違う音が聞こえた。
何かが爆発するような音。
音のした方へ足が自然と進んだ。
しばらく歩くと普段サポート科の人間がくることはない、戦闘訓練などで使われるグラウンドに辿り着いた。
音は間隔を置いて再び聞こえてきた。
「くっそが!まだ威力が弱ぇ!」
音の正体は爆豪くんの個性によるものだった。
日が暮れ始めたこの時間に1人で汗だくになりながら特訓をしていた。
何度も爆発を起こす。
傍から見ていれば十分な威力だと思うけれど、本人は全く満足していないようだった。
(もしかしてずっと特訓してるのかな…)
自分の力に満足せず特訓し続ける爆豪くんから何故か目が離せない。
中学生の頃の爆豪くんは、他の人たちよりも個性が遥かに強くて皆から羨ましがられていた。
特訓しなくても生まれ持った才能があるから羨ましいと少し思っていたけれど、実際はきっと違ったんだ。
『ずっと…努力してきてたんだろうな…』
私は声をかけずにその場を去った。