土曜日の朝。
学校へ行く日よりも早くに目が覚めた。
机の上に置いてあったスマホを手に取りメッセージアプリを起動させる。
友達一覧の1番上には新しく追加された《爆豪勝己》の文字。
雄英に入学してから、こんな日がくるなんて、と何回思ったことだろうか。
体育祭があったあの日の帰り道、約束通り私の1日をあげるということで土曜日に会うことになった。
連絡をとるためにと初めて連絡先を交換した。
電気と違ってスタンプも絵文字もない文字だけのシンプルなメッセージに、爆豪くんらしいと思ってしまった。
《11時に駅前の広場》
最後に送られてきたのは昨日の夜。
私は了解と書かれたお気に入りのパンダのスタンプを送って会話は終わった。
『今日何するんだろ…』
何をするのか聞いてみたけれど、最後まで教えてくれなかった。
鏡の前に立ちいろんな服を合わせてみる。
『いやいやいや…デートに行くんじゃないんだから気合いれなくても…』
ただの休日に会うだけなのに、気づけば必死にオシャレしようとしている自分がいた。
服を選びだしたのはまだ日も昇り始める前だったのに、時計を見れば10時近くになっていた。
『やば!こんなに時間経ってるなんて』
結局シンプルにTシャツにロングスカートを着て、髪も少しだけ巻いた。
いつもはしない化粧もほんの少しだけしてみる。
最後にもう一度鏡を見てから、時計を確認して私は家を出た。
家を出てから駅に向かうまで心臓の音が聞こえるのではないかと思うくらいドキドキしていた。
爆豪くんと休日に1日一緒にいることへの不安なのか期待なのか分からなかった。
けど不思議と嫌な気分ではなかった。
約束の10分前に待ち合わせ場所に到着した。
さすがにまだ来てないかと歩いていると、広場のシンボルでもある銅像の前に爆豪君は立っていた。
『は、早いね。爆豪君』
「……べつに。さっきついたとこだ」
(何で間があったんだろ?)
「いくぞ」
『え、行くってどこに?』
やっぱり行先は教えてくれなかった。
置いて行かれないようにと隣を歩いた。
最初は歩くのが早いと思っていたのに、いつの間にか歩くペースを合わせてくれていた。
歩いている最中は互いに無言だった。
チラッと隣を見れば爆豪君はいつもと変わらない様子で前だけを見ていた。
しばらく歩いて爆豪君の足が止まった。
「ついた」
『…!ここって…』
辿り着いた先は最近出来たばかりで噂になっていた水族館だった。
クラスの友達とも行ってみたいと話していたところだった。
『でもなんでここに?』
「入るぞ」
『ちょっと!』
私の質問には答えてもらえず、爆豪君は水族館の入口へ一直線に歩いていった。
入場料も払おうとすれば無言で2人分払ったり、時間ぴったりにイルカショーを見れたりと完璧なエスコートをされていた。
中に入ってからは楽しくてテンションがあがってしまっていて気づかなかったけれど、これではまるでデートだ。
1度意識してしまうと頭から離れない。
心臓がまたドキドキしている。
爆豪君が私の1日をくれと言ってあげた今日。
特訓に付き合えとか言われるのかと思っていたけれど、実はこういうところに来たかったのだろうか。
普段の爆豪君から水族館はなかなか想像できないが、そもそも何故私の1日が欲しかったのだろうか。
色々考えてみるがさっぱり分からなかった。
「あれ、爆豪??」
「あ"?」
休憩のため水族館に入っていたカフェで一息ついていると、聞いたことのある声がした。
顔をあげれば赤髪の男の子…切島くんと電気が目の前に立っていた。
『電気!』
「奇遇だな。もしかして2人?」
『う、うん。電気たちこそ…なんでここに?』
「クラスで体育祭の打ち上げ兼ねてな。今は別行動中だけど」
『へぇ…ってあれ?打ち上げ…』
クラスで打ち上げということは、爆豪くんも打ち上げに誘われていたのではないだろうか。
横目で爆豪くんをみるとさっきまでとは違った、明らかに機嫌の悪い顔をしていた。
眉間に皺がより睨みつけただけで人を殺してしまいそうなほどだ。
これほど悪人という言葉が似合う人はそういないだろう。
『ば、爆豪くん…?』
恐る恐る声をかけた。
「チッ」と吐き捨てるような舌打ちをした後、私の腕をとると急に歩き出した。
『え、ちょっと!?』
「おい!爆豪!?」
私の声も切島くんたちの声も無視して爆豪くんは無言で歩き続けた。
腕を掴まれたまま人ごみの中を歩いた。
こちらを一度も見ず、ただひたすら歩いていく。
腕の力も強く、私の足も連れて行かれるようにしてあとをついていく。
どれくらい歩いたのか、人ごみから抜けた先で爆豪くんは足を止めた。
それと同時に掴んでいた手は離された。
「…悪い」
呟くような小さな声に私は首をかしげた。
顔を覗けばさっきまでの鬼の形相ではなく、どこか困ったような顔をしていた。
『あの…切島くんたち打ち上げしてるって…合流しなくてよかったの?』
「別にどうでもいいわ。興味ねぇ」
『えと…』
「アイツらといたらお前の時間もらった意味がなくなるだろうが」
『へっ…?』
顔をあげた爆豪くんと目が合った。
その目はしっかり私を捕えていて、私もその目から逸らすことができない。
気のせいか少しだけ爆豪くんの頬が赤くなっているように見えた。
「…お前と2人でいたいと思ったからだ」
『えっと…?』
“私と2人でいたい”
その理由が分からないでいると、爆豪くんはさらに顔を赤くして髪をかきむしる。
「癒月が好きだ」