16_ずっと

「癒月が好きだ」


私の1日をあげた日、爆豪くんに言われた言葉。
最初何を言われたのか分からなかった。
聞き間違いかと思った。
下の名前で呼ばれたことにも驚いたが、その後に続いた“好き”という言葉。
爆豪くんの顔は見たことのないぐらい赤くなっていた。
本気だと分かった途端、私の心臓が今までよりもはやく動いた。

返事をすることができないままその日は解散になった。
家に帰ってからもずっと爆豪くんの言葉が、声が頭から離れなかった。



あの日から1週間が経った。
告白をされてから1度も爆豪くんとは会っていない。
まだ自分の気持ちが整理できていないのもあるせいで、どんな顔で会えばいいかわからなかった。
それでも告白されたのだから返事は早くしないといけない。
その事だけを考えていると時間はあっという間に過ぎていき、今日もまた放課後になっていた。
クラスメイトのように工房に行くこともなく、荷物をまとめ下駄箱へ向かう。
他の学科の生徒も同じように下駄箱を行き交う中、私の目にはっきり飛び込んできた。

「よぉ」
『爆豪…くん』

ポケットに手をつっこみ、壁にもたれて立っていたのは爆豪くんだった。



『……』
「……」

学校を出たあと、私と爆豪くんは横に並んで同じ歩幅で歩いている。
お互いに口を開かず無言で歩き続けた。
車の走る音、すれ違う人の会話、周囲の音が耳に鮮明に入ってくる。
何か話をした方がいいのだろうか。だけど何を話したらいいのだろう。
無言だった空間で最初に口を開いたのは爆豪くんだった。

「次のヒーロー科の合宿…くるのか?」
『え、えっと…一応来るように声はかけられてる?』
「…フッ。なんで疑問形なんだよ」

笑った顔を見ると少しホッとした。
気まずいままの空気が一瞬でほぐれた気がする。
けれどきっと爆豪くんは私からの返事を待っているはずだ。
言わなければいけないのにまだ答えが纏まっていない。
分からないから付き合えないと断ってしまうか。
でもそんな答えでは爆豪くんを傷つけてしまうだけだ。


「まだ返事はいらねェ」
『え?』
「どうせ癒月の事だ。返事決まってねェンだろうが」
『…うん』

まるで私の心を見透かしているかのようだった。
私より大きな手で優しく頭をポンポンと叩かれる。
顔を見ればちょっと頬を赤くしていて、すぐにその手はズボンのポケットに戻った。

『そ、それにしても爆豪くん…私の下の名前ちゃんと知ってたんだね…びっくりした』
「あ"?ンなもんずっと前から知っとるわ。中学一緒だっただろうが」
『え!?それも知ってたの!?』

中学3年生のたった1年間。
私と爆豪くんは1度も会話を交わしたことは無い。
クラスも違うし、有名な爆豪くんと違って地味で目立たない私の事を知っていたなんて思わなかった。

「まぁ話したことはねェけどな」
『だよね。私話しかけられるのって大体怪我治してほしいとかだし…』
「ンで断れなくてキャパオーバーして廊下でぶっ倒れてたら意味ねェだ…」
『なんで私が廊下でキャパオーバーで倒れたこと知ってるの?』

しまったと言うような顔をした爆豪くんは言葉を途中で止めた。
中学生だったある日、私はあまり話したことのない同じクラスの女子生徒から怪我の治療を帰り際に頼まれた。
この日だけでも既に数人に個性を使っていたため、頭もフラフラしていた。
けどせっかく頼ってくれたのに断ってしまったら、悪いイメージをもたれてしまうんじゃないかと思ってしまい、結局断りきれなかった。
幸い大怪我じゃなく擦りむいた程度の傷だったため、すぐに治癒は終わった。
女子生徒が去って行ったあと、急激な目眩に襲われた。
そこから先の記憶はない。
気づいたときは保健室のベッドに横になっていて、保健室の先生曰く近くを通りかかった男子生徒が運んでくれたらしい。
名前を聞いたけど、どうしてだか先生は教えてくれなかった。

『もしかしてあのとき保健室に運んでくれたのって爆豪くん?』
「……」
『なんで言ってくれなかったの!?私すっごい探したのに!』
「自分から言えるわけねェだろ…あのとき喋ったことすらなかったのによ」

言われてみれば確かにそうだ。
今でこそこうして普通に喋ることができるようになったけど、中学生の私は爆豪くんのことを怖くて関わりたくない人と思っていた。
ずっとお礼を言いたくて、見つからないと諦めていた人が彼だったなんて思いもしなかった。

『ありがとう。助けてくれて』
「ン。…もう無理すんじゃねェぞ」
『うん』

少しだけ爆豪くんの頬は赤くなっていた。
私の頬も熱が集まっているように感じた。

『ちゃんと考えて返事するから…もう少しだけ待ってて』
「わかった」

家に着くまで私の心臓はうるさいままだった。