まだ真新しい制服のネクタイをしめ、教科書の入った少し重いリュックを背負って厳重な校門をくぐりぬける。
雄英高校に入学して早数週間。最初の志望通り私は雄英高校のサポート科に入学することができた。
そして私が恐れている爆豪くんは同じ雄英高校のヒーロー科にトップで合格したと、誰に聞かずとも耳に入ってきた。
“唯一の合格者となる”と入試前から豪語していた彼だったが、私までも学科が違うが合格してしまい何か言われるのかとビクビクしていたが、その矛先は爆豪くんと同じクラスだった緑髪の子に向いたようで、私とは一切関わることはなかった。単に私の存在自体を知らないだけかもしれないけど。
少し早い時間に登校したからかあまり生徒の姿は見当たらない。
玄関に入りサポート科の下駄箱へ足を進めたとき、視界の端に人影が映り込んだ。
何気なく。本当に何気なくその人影の方に顔を向けた。
赤い瞳と目があった。
私が一番恐れていて、会いたくなかった人―…
爆豪勝己
丁度ヒーロー科の下駄箱で、そこに彼がいても全くおかしくはなかったけれど、こんなところでしかも目まで合うなんて。
私は慌てて目を逸らし、速足で自分の下駄箱へ向かい靴を履きかえダッシュで教室へ向かった。
勝手に恐れていて、一方的に知っているだけ。
特に何かをされたわけでもないし、向こうからしたらただのモブの1人にすぎない。
それでも私は彼がものすごく苦手で、できることなら関わりたくない。
「癒月はどっちがいいと思う?」
『へっ?なにが??』
「だーかーらー!どっちの機能をサポートアイテムに付け加えるのがいいかって話!朝からボーっとしすぎ!」
『ごめんごめん。ちょっと朝からいろいろ疲れちゃってて』
サポート科の皆は基本的にヒーローに必要なサポートアイテムを発明したり、改良したりと休み時間でも作業をしていることが多い。
私の友達も朝から教室で昨日から発明しているサポートアイテムについて頭を悩ませていた。
残念ながら私には皆のような技術はなく、友達からの相談を受けてアドバイスをするぐらいしかできなかった。
「もしかして前に話してたヒーロー科の爆豪勝己って人と関係あるの?」
『…まぁ…ね。今朝ばったり遭遇して目が合って…私逃げたんだよね』
「別にそこまで意識しなくてもよくない?どうせ私らとほとんど会う機会ないんだしさー」
『そうなんだけどさ…』
隣の席の彼女は他人事のように答えると、自分の作ったサポートアイテムを改良し始めた。
たしかに彼女の言うとおりだとは思う。
今日だってたまたま会っただけで、向こうも知らないやつと目が合っただけって思っただけかもしれないし。
一限目の予鈴が鳴ると同時に前の扉から担任の先生が入ってきた。
「1限目はサポートアイテムの制作授業だ」
クラスの皆の目が一斉に輝いた。
さすがサポート科。普通の座学よりもこういった学科特有の授業はテンションが上がるのだろう。
もちろん私も特殊な授業は好きだ。
サポートアイテムを作るのは得意ではないけれど。
「神治、お前は特別メニューだ」
『へ?』
「神治はヒーロー科の実践演習の方に参加してもらう」
『え?な、なんでですか!?私戦えないですよ?』
「落ち着け。戦う方じゃなくて、怪我の治療に回ってもらう。演習とはいえ軽傷は十分あるからな。神治の個性を考えればそっちの方が授業としていいだろう」
私の個性は治癒。そのままの意味で触れれば怪我を治すことができる個性。
怪我の大きさによって体力の消耗が変わるため、あまり大きな怪我は治せない。
先生から場所を聞くと私は靴を履きかえ外に出た。
サポート科の友達からもらった特殊な靴には小型エンジンが搭載されており、疲れることなく自動で進んでくれる。
手元のリモコンひとつでオンオフは勿論の事、スピード調整もできる。
なんでもヒーロー科の人の個性を参考にしたとか。
『ヒーロー科の手伝いかぁ…爆豪くんのいるクラスじゃないといいなぁ…』
なんてフラグを立ててしまったからだろうか。
目的の建物へ到着し、扉を開けた途端に爆風で私は後ろへ吹っ飛ばされた。
『いった…なに…?』
体を起こし扉から中を覗けば、あの爆豪勝己が赤髪の男の子相手に対人訓練をしていた。
『う…帰りたい…』
「サポート科の神治か?」
『え…あ、はい。神治癒月です』
恐る恐る中に入ると、黒い服に灰色の布を首元に巻いている男性に話しかけられた。
ヒーロー科A組の担任、相澤消太先生だ。
雑誌などで見たことはあったが、こうして間近で見るのは初めてだった。
相澤先生の一声で、あちらこちらで訓練をしていた生徒が手を止め、一か所に集まってきた。
サポート科にはない空気感に包まれ思わず肩があがる。
「えー…サポート科から怪我の治療を手伝ってもらうために今回授業に参加してもらうことになった」
『さ、サポート科の神治癒月です。個性で大怪我以外だったら治せるので頼ってください。よ…よろしくお願いします』
「すっげー!治癒の個性!?」
「よろしくね!神治さん!」
先程の赤髪の男の子や可愛らしい女の子。A組のいろんな人から声をかけてもらった。
その人たちの後ろから視線を感じ目をやってみれば、爆豪勝己がこちらを見ていた。
少し不機嫌そうな顔つきに私はすぐに目を逸らしてしまった。
(やばい…何か知らないけど…すごい機嫌悪そう…)
「挨拶はここまでだ。訓練の続きに…!!全員下がれ!」
突然の事で全員が動くことができなかった。
先生が向く方向へ目をやると、無数の黒い渦が現れそこからぞろぞろと敵(ヴィラン)が現れた。
敵は全員こちらに殺気を放っていた。
今日は厄日だ。
初めて生で目にした敵に足が震えて動くことができない。
徐々に近づいてきた黒い渦に吸い込まれ、私は意識を失った。