『んっ……』
目が覚めゆっくりと目を開けると、ぼやける視界に高い天井が映った。
どうやら仰向けになっているようだった。
(私…なんでこうなってるんだっけ…)
ボーっとする頭に黒い渦が現れた光景が思い浮かんだ。
そうだ黒い渦から敵が出てきて、渦の一部に吸い込まれたんだっけ。
思い出しているその瞬間、目の前に小刀を両手に持った敵が真上から飛び込んできた。
『ひっ!!』
「死ねぇぇぇぇぇ」
敵の持った小刀が私に振り下ろされる。しかしその小刀は私に届く前に敵ごと爆発で吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた敵の代わりに爆豪勝己が私の視界に映った。
ようやく上半身を起こすことができた私に目をやると、彼は面倒くさそうな顔をした。
「ぼさっとすんな!さがってろ!」
『は、はいっ!!』
襲い掛かってくる敵に躊躇なく爆豪くんは個性の爆破でふっとばしていく。
私は膝をついたまま物陰に身をひそめ、ばれないように息を殺した。
爆発音がひっきりなしに響き渡る。
渦に吸い込まれこの場所に飛ばされたのはどうやら私と爆豪くんの2人だけのようだった。
関わりたくないと思っていた爆豪くんだったけれど、こんなときばかりは彼と一緒の場所に飛ばされてよかったと思った。
もし1人で飛ばされていたら間違いなく私はすぐに敵にやられていただろう。
数分後、爆発音はおさまった。
物陰から顔をだすと、目の前に爆豪くんが見下ろすように立っていた。
『ひっ…!』
「なに間抜けな声だしてんだよ」
爆豪くんの後には先程まで暴れ回っていたであろう敵たちが倒れていた。
どうやら1人で倒してしまったようだ。
当の本人は少し息を切らしながらも大きな怪我はしていないようだった。
それでも腕や頬にかすり傷ができていて、うっすらと血が滲んでいた。
その傷口に私はそっと手をかざした。
「何やってんだよ」
『き、傷の手当を』
「ンな傷ほっといても治るわボケ」
『駄目だよ!たとえ小さな傷でもここから菌が入ったら大変なことになるんだから!』
声に出してから私はハッとなった。
ビビっていたはずなのに思わず大きな声を出してしまった。
爆豪くんも大きな声を出した私に驚いて目を少し大きくしていた。
個性を使って目で見える限りの傷をひとつずつ治していくと、爆豪くんは確認するように傷のあった場所を手でなぞった。
『これで大丈夫…です』
「…そうかよ。ならさっさと行くぞ。他の敵も倒しにいく」
爆豪くんが私に背を向けたときだった。
数十メートル離れた唯一の出入り口が突然爆発した。
『な…なに!?』
「チッ…向こうからお出ましかよ」
爆発の煙から細長い影がよろよろと現れた。
煙が次第に消えていくと、メガネをかけた背の高い男がゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。
「へェ。さすが雄英。この数をやっちゃうなんてさすがだねェ」
さっきまでの敵とは比べ物にならない程の殺気を感じた。
治まっていた手足の震えが再び震えだした。
横にいた爆豪くんを見るとさっきまでの余裕の表情は消え、歯を食いしばっていた。
私より一歩前に出て下がってろと目で合図を送られた。
震える足で一歩ずつ後ろにさがる。
「テメェもくたばれぇぇぇぇ!!」
敵につっこんでいった瞬間に大きな爆発が起こった。
爆風で前が見えない。
立て続けに数回爆発音が聞こえるがどうなっているのか全く分からない。
なんとか片目だけうっすらと目を開けると、爆発の煙から影がこちらに向かってきた。
『ひっ…』
その影に腕を掴まれると、崩れできていた瓦礫の陰に引っ張られた。
『ば…爆豪…くん…』
「くっそ。手も足もでねェ」
私を引っ張ったその影は爆豪くんの手だった。
先ほど傷を治したばかりの頬には新しく傷ができていた。
両腕につけていた籠手の片方が無くなっており、手首には火傷のような跡がついていた。
『その手…どうしたの』
「…あの野郎の個性だ。俺と違って触った箇所を好きなタイミングで爆発してやがる」
まだ煙が蔓延しているため敵に居場所はばれていない。
だがそれも時間の問題だ。
煙がなくなればあっという間に居場所はばれる。
そしてここから出るには敵の真後ろにある爆破で半壊した出入り口のみ。
敵との戦いは避けられない。
「この距離から俺の個性を撃っても避けられるどころか逆に攻撃される。かといって至近距離で撃つにはアイツの攻撃を一発は喰らわねェと近寄れねェ」
『そんな…』
片方の籠手が破壊されてしまった以上、もう片方を壊してしまえば爆豪くんは高威力で撃つことができない。
籠手があっても火傷を負うほどの強い爆発の個性。
とてもじゃないが素手で受けたあとに個性を使うなんて無理だ。
考えても考えても良い案が思い浮かばない。
「俺があいつを足止めする。お前はその隙に出口に走れ」
『えっ…でもそれじゃあ爆豪くんは…』
「お前がいると足手まといで戦いづれェんだよ」
いつも余裕で強気だった爆豪くんの表情はいっそう強張っており、焦っているように見えた。
私が上手く逃げ切れたとしても、その作戦だと爆豪くんが助かる確率は極めて低い。
次第に煙が消えていく。
「さァさァ。かくれんぼは終わりだ。どっちから爆発させて吹っ飛ばしてあげようか」
爆豪くんは強く拳を握り、今にも飛び出しそうだった。
そんな爆豪くんの腕を私は掴んだ。
「何すんだ」
『…一発…一発耐えられればアイツ倒せる?』
「は?」
アイツに勝つ手段が全くないわけじゃない。
たったひとつだけ、真っ先に浮かんだ案があった。
けど臆病な私にはなかなか実行する決断が持てなかった。
まだ爆豪くんにも誰にも言っていない私の個性の使い方。
「あぁ、一発耐えられればアイツの背後に回って至近距離から撃てる。こっちの籠手が無事ならな」
『…だったら』
私は籠手が壊れた側の腕と籠手のついた側の露出した部分を順番に握り静かに目を閉じた。
普段は使うことがないこの個性をここで使うことになるとは思わなかった。
『これで爆発を受けても痛みも一切感じないまま傷も治る』
「は?お前、そんな個性使えンのかよ!?先に言っとけや!」
『ごっ…ごめんっ…これ…あんまり使ったことなくて…』
「…まぁいいか。それが本当ならなんとかなるかもな」
『一発…が限界だと思うから…。それ以上は多分もたないから…』
「…わかってる」
煙が消え始めると爆豪くんは瓦礫の陰から飛び出していった。
私は大きく深呼吸をして瓦礫にもたれかかった。
上手く誤魔化せた。
手の震えがさっきよりも大きくなる。
心臓の音がドクンドクンと聞こえそうなくらい早く動いている。
両肩を抱え丸くなった状態で私は静かに目を閉じた―