子供の頃からオールマイトに憧れてヒーローになるのが夢だった俺は、高校は絶対に雄英のヒーロー科に入ると決めていた。
個性にも恵まれ周りからもヒーロー向きだと言われ続けた俺は、今思えば調子に乗っていた気もする。
通っていた平凡な中学から初の雄英進学者となるんだ、と言い続けていた。
そんな中学3年の春、幼馴染のデクまでもが雄英に行くとかほざいていたことに腹を立てていた日だった。
「隣のクラスに転入生だって!しかも女子!」
「…興味ねェ」
「見にいこーぜ!」
よくつるんでいたクラスメイトが俺の腕を掴み無理矢理連れ出した。
転入生なんて死ぬほど興味がない。
それも女子なんて尚更興味ねェ。
腕を引っ張られ廊下に出れば、隣のクラスのドアの前は噂を聞きつけた野次馬でいっぱいだった。
溜息をつきながら掴まれた腕を振り払い、教室に戻ろうとした。
チラッと横目で野次馬だらけの教室を見れば、偶然にも野次馬の隙間から1人の女子生徒と目が合った。
ドキッ
心臓が大きく跳ね上がった。
すぐにその隙間は野次馬によって塞がれてしまい彼女は見えなくなってしまった。
なんだ?この感覚。
味わったことのない知らない感覚だった。
まだ少しドキドキしている。
教室に戻って席についても治まらない。
たった一瞬目が合っただけなのに彼女の顔は鮮明に頭に焼き付いてた。
「なんだカツキ戻ってたのかよ。いやぁなかなかに可愛い子だったな」
「……そうかよ」
「カツキってほんっと女に興味ねぇよな。モテる癖に」
「ヒーローになること以外興味ねェわ」
嘘だ。
確かに今まで女に興味なんて全くなかった。
けど何故だか彼女だけは気になった。
気になったけれど、だからと言って何か行動をしたわけでもない。
彼女の名前が神治癒月ということも、個性が治癒だということもクラスメイトが話していたことを聞いて知った。
クラスも違えば尚更接点なんてなくて、会話なんて一度もしたことはない。
ただ俺だけが1人気になって、たまにすれ違う彼女を目で追っているだけだった。
夏休みに入る前、進路調査票を出すため放課後職員室へ向かっているときだった。
「神治さん!また怪我しちゃった…」
帰るところだったのか鞄を肩にかけた彼女を手から血を流した女子生徒が呼び止めていた。
『大丈夫だよ。これぐらいならすぐ治せるよ』
彼女は傷口に手を当てると個性を使った。
転入してきてから彼女の個性はよく耳にする。
小さな傷ぐらいならすぐに治ると噂になり、怪我をした生徒が治してもらいに来る場面をよく見かけていた。
その度に彼女は断ることなく笑顔で引き受け治していた。
「ありがとう!助かったよ!!」
『どういたしまして。気を付けてね』
女子生徒はお礼を言うとどこかへ去って行った。
その直後だった。崩れ落ちるように彼女がその場に倒れた。
「おい!!」
駆けよれば彼女は気を失っていた。
顔色も悪く俺は彼女を抱え上げ保健室へ走った。
「個性の使い過ぎね。しばらく休めば治るでしょう」
「…そうですか」
「治癒の個性って結構体力使うから無理したんでしょうね」
ベッドで横になっている彼女はよほど疲れていたのか目を覚ます気配はなかった。
顔色も倒れた直後と比べればだいぶよくなっているように見えた。
立ち上がろうとしたとき、近くに置いていた彼女の鞄に腕が当たり、中身をばらまくように落ちた。
「やべ……」
ばらまかれた教科書を拾い集め、鞄の中へ直しているときだった。
ノートの間に挟まれた1枚の紙が俺の目を惹いた。
進路調査票と書かれた紙。
下の欄には雄英高校サポート科と書かれていた。
また俺の心臓がドキッとした。
「雄英…」
デクが雄英に行くと言ったときは無性にイライラしたし、許せないと思ってしまった。
けれど今、彼女が雄英を志望していると知ってイライラという感情は全くなかった。
寧ろ高校でも彼女と会えると期待の感情が強かった。
ヒーローになるために雄英を選んだことに変わりはないが、より一層雄英へ行くという気持ちが高まった。