まずはちゃっちゃとご飯食べちゃお、と、いつもより数段豪勢な夕食をいつもと違う相手と取って。食後、ソファで並んで座り、コーヒーを飲みながらざっくりと同期で上司である銃兎の話をして。
話し終えたところでおもむろに一二三が口を開く。
「今日起きたらさー、独歩ちんからのメッセが山になっててさぁ」
「山って」
「未読がホント山になってたんだって。独歩の奴、『那由多をヨコハマに引き抜いてったのは俺なんて比べ物にならないくらい凄い奴に違いなくて、きっと高学歴高収入高身長とかいう一昔前の3Kを全部兼ね備えてるような奴で、そんな奴が別のディビジョンにいた那由多をわざわざ何も無いのに引き抜くか?無いだろ、何も無いわけがない、何も無い方がおかしい』……ってずーーーっと」
「さすが独歩。ネガティブまっしぐら」
「そう言ってる場合でもなくね?」
「そうだねぇ……」
朝の時点でこうなりそうな予測はしていた。幼馴染3人のうちの2人が揉めると残った1人に相談するのはいつもの事。
「それがあったから来たの?」
「ま、お祝いってのも嘘はついてないけどね」
休みは休みだったから来るつもりでいたし、と一二三は続ける。
独歩には警察学校時代に告白してきた人がいる、という話すらしてない。言ったところで既に終わった話だし、独歩を不安にさせることもないだろう、という判断の上で。むしろそういう話をするのは専ら一二三とだった。一二三に隠し事が出来たことが無いせいだけど。
だから、彼は知っている。
「その同期って、那由多に告白してきた奴っしょ?卒業して、っていうか振られてからだいぶ経ってんのにずっと片想いしたままだったんだ?」
「みたいだね。別に同期がどう思っていても私は変わらないんだけどなぁ」
「ちゃんと話しておかないと独歩ちん勝手に暴走しちゃうからねー?」
「分かってるけど、話しても暴走しそう」
「まぁそこまで頭固くないっしょ」
終わったはずの話がこういう形で戻ってくるとは思ってなかったが。
「よっし、那由多と話出来たし、俺っち帰るわ」
「独歩待たなくていいの?」
「今回のは2人でちゃんと話し合った方がいいっしょ。俺が仲裁しなきゃいけないような話でもないしね」
「そっか」
マグカップ洗うのだけよろしく!と言い残し玄関へ。見送るため彼の背に付いていく。
「ありがとね、一二三。心配掛けた」
「そう思うんならしっかり仲直りしてくんねーとな!」
「分かってる。……ちゃんと話すよ」
高そうな靴のつま先で床をトントンと鳴らす一二三。外に出る時の必需品とも言える帽子と伊達メガネ。『伊弉冉一二三』だとバレないための彼の防御。それらを身につけながらこっちに向けるいつも通りの笑み。
「送ろうか?」
「大丈夫っしょ。もう暗いし、人いない道選んで帰るから」
「それはそれで危ないような気もするけど……まぁ気をつけて」
「りょーかい!……あ、一つだけ那由多に謝んなきゃいけなくて」
「何?」
「同期で上司のそいつが、前に那由多に告ってること、独歩に言っちった、メンゴ!」
……は?こいつ今なんて言った?
呆然としているうちに、一二三はマスクをつけて「じゃ、独歩ちんによろぴこー!」などとほざいて走って帰っていってしまった。
どいつもこいつも
(「一二三も左馬刻さんも勝手に重要なことを言いふらす」)
(独歩のネガティブを加速させるのはいつも一二三だ)
(イラついたから一二三に大量のスタンプを送り付けておいた)