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「……16、17……18人ですかね」
『那由多。数えるならちゃんと数えてください、20人です』
「それは失礼。どいつもこいつも雑魚そうなので、つい」
『否定はしませんが……』

廃れた工場跡地。ここでガラの悪いお兄さん達が薬物に手を染めているとの情報を得て、銃兎と共に殴り込みに来た、という訳だった。
出入口は2つ。表を私が、裏を銃兎が。万が一裏から逃げようとしても、そこは銃兎が逃げ道を塞いでいるため一網打尽に出来る。無線の向こう側から銃兎の笑っているような声がした。

『貴女のラップを見るのは警察学校以来ですか。お手並み拝見ですね』
「まぁ転勤後初任務ですし、この程度は手柄にさせていただきますけど」
『頼りにしてますよ』
「……突入します」

建付けの悪い扉を蹴破る。中にいた青年達が一斉にこちらを向く。そのうちの数人が同時にマイクを握ったのも確認した。
数歩、中へと踏み込み静かに口を開く。

「警察です。ここにいる全員、薬物所持及び乱用の罪で現行犯です。大人しくマイクを捨てて、お縄につきなさい」
「んだとこのクソアマァ!誰が大人しくするかっての!」
「痛い目を見たくないなら、抵抗しない事をおすすめしますが」
「ハッ!女ってだけでこっちを見下しやがって、クソアマポリ公がよぉ!1人で何が出来るってんだ!」

1人の意気がる叫び声に他の連中も同調しだす。
こういうとき、少し楽だと思う。こっちが女というだけで彼らの中で『負けるわけがない』と思い込んで全員でかかってくる。応援を呼ぶことも無く。逃げ出す者も無く。
まさに一網打尽、だ。

リーダーのような男がマイクを起動するのに合わせて、無数のいびつに歪んだマイク起動音が響く。これは違法マイク、か。

「このマイクの餌食になりやがれ!」
「はぁ……話し合いは無意味、あとは実力行使ですか」

20人のラップが廃工場を揺らす。音圧はあるが、それだけだ。リリックもライムもフロウもスキルも、何もかもか未熟。

「なっ……効いてない……だとぉ!?こちとら攻撃増強の違法マイクだぞ!?」
「いくら増強されたとしても、元のラップがお子様ラップですし、全くもって脅威じゃないんですよ。……さて、次はこちらの番ですね」

自分の手の中にあるヒプノシスマイクを起動する。
マイクの形が切り替わり、銃兎の物と同じく警察無線の形へと変化する。そして自分の後ろには、起動のたびに大きさも数も変化する無数の黒い箱が出現した。何を模しているのかも分からないが、私のヒプノシススピーカーである。

目の前の青年達が怯えて逃げ出そうとする者も現れる。

でも、もう、遅い。


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「最初、攻撃させる必要はなかったでしょう」

彼女のラップを久々に見た感想は、変わってないな、という所に尽きる。自分が基礎を教えたとはいえ、既に5年程の年月が経過している。それでも未だに自分が教えたギャングスタラップを踏襲している彼女を見ていると、どことなく優越感を感じた。

「あんなへっぽこラップなんて食らってもダメージないですし、一回心折っといた方が確実に捕らえられるので」
「シンジュクに居た時もそのやり方を?」
「えぇ、まぁ」
「……あまり無理はするなよ」
「大丈夫、分かってるよ」

本当にわかってるのだろうか。もし、実力を測りそこなえば無事では済まないというのに。廃工場の床に転がるゴロツキ共が那由多の言うところの『へっぽこラップ』だったから良かっただけ、のはすだが。

「それにしても、ここまで痛めつける必要もなかったのでは?」
「あ、それは私のせいじゃないです」
「どういう意味ですか?」
「これこれ」

そう言って彼女は、気を失い廃人寸前になったゴロツキどもが使用していた違法マイクを拾い上げる。

「これ、ちょっと前にシンジュクで広まったやつと同じです。こいつらも言ってましたけど『攻撃増強』って謳ってる違法マイク。なのに実際使っても増強なんてされない欠陥品でして。問題は攻撃を受けた時なんですけど、相手の攻撃が一定以上の威力だと違法マイク使用者に精神異常が起こるんですよ」

相手の攻撃を増強しちゃうなんてありえない欠陥品ですよねー、と那由多は言うが、それが本当なら大問題になる。

「ヨコハマに違法マイクによる精神異常を治療できる病院なんて、そう数はないぞ……」
「20人は厳しいですか」
「厳しいな。交渉して16、いや17人くらいか……」
「3、4人か……ちょっと電話してきます」
「どこか当てが?」
「まぁ。シンジュクに搬送することになりますけど」



彼女の秘策

(「あ、先生?九十九です。先日はお世話になりました」)