「手配出来ました。リーダー格の青年と重症そうな人を2、3人選んで車乗せて貰えますか」
「重症そうな……って他ディビジョンの手を借りるんですから軽傷者を連れていくに決まっているでしょう」
「元々、あの違法マイクはシンジュクで出回ってた物なので、病院側もあのマイクの症状に慣れてるんですよ。何度もお世話になってる専門家ですし」
なるべく早く治って貰わないと困るでしょう?なんて那由多が携帯端末を仕舞いながら言う。
確かに早く治るに越したことはない。全員精神異常を起こしている今、奴らが持っていた薬物の入手ルートは分からないままだ。早くしないと、薬物売買の親玉に逃げられる可能性もある。
渋々ながら、手早く重症者を後部座席に放り込み、那由多を振り返る。
「で、何処に連れていけばいいんです?」
「新宿中央病院の裏口に。道案内はしますよ」
「お願いします」
新宿中央病院……って確か……。
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銃兎の車で40分。彼の運転のおかげで思ったより数段早く着いたが、病院の裏手には既に先生の姿があった。
「やはり元The Dirty Dawgの神宮寺寂雷でしたか……」
「シンジュク署所属で違法マイク検挙をひたすらにやってると毎回お世話になりますから」
運転席にいる銃兎の呟きに軽く返し、車を降りて先生へと駆け寄る。
「寂雷先生!外で待ってなくて良いと、いつも言ってるんですから中で待っててくださいよ……!」
「これは私がしたくて勝手にしている事ですから、那由多さんは気にしなくていいんですよ。君が異動になったと那由多さんの後輩くんが嘆いていたので、気になっていたのもありましたしね」
「えっすみません、後輩がご迷惑を。いつの間にそんなことを……先生に愚痴を吐いてもどうにもならないでしょうに……」
「今日シンジュクでもあのマイクが出まして、その時にね。私に話して落ち着くなら、私は構いませんから」
「シンジュクでも?ここ最近出てなかったのに」
「那由多さんの指導の甲斐あって、君の後輩は優秀ですから。逃すことなく全員逮捕出来たそうですよ」
「それは良かった」
カツカツ、と後ろから革靴が鳴る。振り返ると我が上司が余所行きの笑顔を貼り付けて立っていた。
「彼は……」
「はじめまして。九十九の上司の、入間銃兎と申します。神宮寺先生のお噂はかねがね」
「ご丁寧にありがとう、新宿中央病院の神宮寺寂雷です。立ち話もなんだし、そろそろ診察に入ろうか」
「よろしくお願いします」
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「……うん、全員見た目ほど重症じゃないね。明日の朝には会話出来るようになると思うよ。昼くらいになれば警察病院へ護送車での移送も可能じゃないかな」
「明日の朝、ですか……。那由多、明日現直で彼らの事情聴取お願いします。昼過ぎに護送車回しますので」
「了解です」
寂雷先生の診断にほっと息をつく。見た目だけであれば、今までの搬送者よりも酷い状態だったから、予想より軽傷なら問題はない。
明日の朝も、新宿中央病院に真っ直ぐ行っていいのなら万々歳だ。ヨコハマから出直すには流石に遠い。
「こちらの準備もありますから、護送は2時半頃でお願いします」
「……?先生、いつも護送手続き終了って1時頃でしたよね?」
「明日は少し事情が違ってね」
シンジュクにいた頃と違う時間が先生から提示される。ディビジョンを跨ぐと手続きが大変、とかなんだろうか。先生はあまり先延ばしにする人じゃないし……まぁ、先生が言うように何かしらの理由があるんだろう。
「まぁ私はどちらでも構いませんよ。2時半頃に迎えに来ますね」
「分かりました。よろしくお願いします、銃兎さん」
今日は退散、とばかりに銃兎は先に歩いていってしまう。私も1度ヨコハマに戻らないといけない、か。シンジュクにいるんだし、直帰なら楽なんだけどなぁ。
そんなことを考えていると、肩を叩かれる。振り向くと、長身を屈めて私の耳元に顔を寄せる寂雷先生の姿が。
「明日、朝から独歩くんが医療機材のメンテナンスで来る予定なんですよ」
「……えっ」
「彼も会社に行かないで真っ直ぐ来ると連絡があったし、一緒に来れるだろう?終わったら2人でお昼でも行っておいで」
まさか、そのためだけに護送時間をズラしたのか、寂雷先生。
「せ、先生、流石にそこまでして頂くわけには……」
「那由多さんが異動になって、独歩くんとの時間もあまり取れないだろう?彼は不安を感じやすい質だから、なるべく解消してあげたいと思ってね」
私にはこれくらいしかできないけど、と優しく微笑む寂雷先生。いや、十分です。十分すぎる。寂雷先生は、私の仕事の協力要請相手であると同時に、独歩の営業先であり、更には主治医でもある。本当にお世話になりすぎて、足を向けて寝られない。
「……ありがとうございます」
「構いませんよ」
先生に頭を下げて、先に行ってしまった銃兎を追う。
「何の話をしていたんです?」
「明日の打ち合わせみたいなものですよ」
「……まぁいいでしょう。家まで送りますから今日は直帰でいいですよ」
「えっいいんですか」
「ヨコハマに戻る方が面倒だろうが」
「……助かります」
恵まれている
(「那由多は早くヨコハマに引っ越せ」)
(「引っ越す予定は全く無いですけど」)
(「は?」)