03

「銃兎さん、終わりそうですか」
「終わるわけねぇだろ」
「ですよねー」

只今絶賛修羅場中。昨日は毒島さんのところを訪ねる余裕すらあったのに、急に忙しくなったヨコハマ署。昨日の虚偽だらけの報告書は関係ないが。……関係ない、と思いたいが。

「そういう那由多は終わるんですか、普段なら帰る時間をとっくに過ぎているでしょう」
「残業どころか、終電も危ういと思ってますよ。この辺のビジネスホテルに泊まる覚悟はしてます」

あぁもう、今日は一二三から相談があるとか言われて独歩と二人で行く予定だったのに。息抜きに端末を取り出すと通知が1件。結構前に来ていたそのメッセージは独歩から。定時退勤したから先に一二三の家に行くと告げるものだった。元々、帰る時間は合わないだろうから現地集合の予定ではあったけど……えっ独歩が前に定時退勤してたのってどれくらい前だ……?今年に入ってからはなかった気がするんだが。ともかく、帰れないことを連絡しなくては。

「ちょっと同居人に電話してきます」
「ついでに休憩とってきていいですよ。戻ってきたらまだまだ働いてもらいますから」
「……嫌な宣言しますねぇ……」

廊下に出て、休憩スペースの椅子に腰掛けながら独歩に電話をかける。数コールで呼出音が途切れる。

『……はい』
「もしもし、独歩?」
『あぁ。……どうかしたのか?』
「ごめん、今日行けそうにないや。というか、帰れそうにない」
『昨日までそんな忙しそうじゃなかったよな……?』

心配が浮かぶ独歩の声に申し訳なくなる。とはいえ帰れる訳でもないので。

「今日だけ異様に修羅場ってる。片しても片しても仕事が終わらない……独歩は一二三の相談乗ってあげて。後で私も聞くから」
『……多分、那由多も聞いた方がいい……と思う。というか、一二三の奴、今回きっと俺より那由多の方をあてにして相談することにしたんだと思うから』
「もう相談聞いたの?」
『晩飯の後に話の流れで、な。あいつ今…………おい、一二三!?』

独歩の叫ぶ声と、電話越しに聞こえるガラスが割れる音。
携帯と、なにか重たいものを投げ捨てた音か。衝撃音が耳に刺さる。

「ちょ!?独歩!?」

もう、声は届かない。
微かに聞こえるのは、一二三の声と、女性の叫び声。どういう、ことだ……?一体何が起きている!?
1分も経たないうちに、女性の声が消え、独歩と一二三の声だけが遠くから聞こえている。バタバタと足音が近付いてきた。

『那由多!』
「独歩、一体何があっ」
『一二三がっ!ストーカーに包丁で刺されてっ!』


殺意の包丁

(確かにこれを相談するなら私の方が適任だ)
(と、冷静に思った自分が嫌になった)