04

独歩が一二三の携帯で警察に通報したのを確認してから電話を切り、何がなんでも早く帰るため自分の席に戻る。

「早かったですね」
「ちょっと事情が変わったのでさっさと終わらせて帰ります」
「何があったんです?」
「電話してたら、向こうが警察沙汰になりまして」
「……どんな状況ですかそれ……」
「ストーカーに刺されたらしくて。警察と救急車呼ぶようには伝えたんですけど」

沈黙。重い空気にしてしまったらしい。素直に答えるべきではなかったか……。さっさと仕事片付けて帰ろう。一二三の顔は見れないかもしれないけど、独歩から詳しい話くらいは……いや、事情聴取で疲れてるか……?とにかく早く二人の無事は自分の目で確認したい。
仕事を手元に寄せようと書類に手を伸ばすも、その先の書類の山が消える。山はいつの間にか横に立っていた上司の手の中に。

「那由多、駅まで送るので帰る準備していいですよ」
「は?いや、でも仕事……」
「貴女の仕事量くらいなら私でも引き継げます」
「じゅ、銃兎だって仕事抱えてるでしょう!」
「いいから帰れって言ってんだよ……!まったく……恋人がストーカーなんかに刺されていても、仕事を優先するなんて馬鹿なんですか貴女は」

はて。恋人は独歩で。刺されたのは一二三で。あぁ確かに同居人に電話するとしか言ってない。幼馴染の家にいるとも言ってないから。銃兎からすると独歩が刺された以外の選択肢がないのか。
呆然としてる間に手元にほんの少し残っていた書類も銃兎に奪われ、パソコンも電源を落とされる。

「さ、さすがに自分で帰れます……」
「この程度のドライブは気分転換ですよ。まぁシンジュクまでは送って差し上げられませんが」
「いや、駅まででも充分です……ありがとうございます」
「構いませんよ」

こういう時、私にも貸しひとつとか言えばいいのに。強請る程の人材でもないってか。


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結局、着いた時には事情聴取も終わっていて、病院のエントランス前で独歩と落ち合うことしか出来なかった。それでも一二三は明日には退院出来るようで胸を撫で下ろす。病院から家へ独歩と2人、歩いて帰る。

「仕事、切り上げてきたのか?」
「……上司に、電話の向こうが警察沙汰になって救急搬送された、って言ったら帰された」
「うっ……すまん」
「独歩は悪くないでしょ。悪いのは一二三を刺したストーカー女」

シンジュク署のメンバーはよく知ってる。先輩も後輩もみんな優秀だ。担当に着いたのは私の後輩らしいし、きっとすぐ捕まるとは思うけど。

「一二三は警察沙汰にしたくなかったみたいだけどな……自分を好いてくれた子なんだし、なるべく穏便に済ませたいって」
「はは、言いそう。でも一二三が怪我しちゃった以上、警察に頑張ってもらわないと」
「だな。……でももし、捕まらなかったら……」
「捕まらなかったら?」
「…寂雷先生に相談してみようと思う」
「先生に?」
「……あの時のストーカーの様子は明らかにおかしかったから……精神的な疾患を持っているんじゃないか、って……」

先生に相談してもストーカーは出てこないとは思うけど。もし、自分達で行き先を突き止められたのなら、寂雷先生に診察と治療を頼むのは有効な手立てではある、か。

「あと、その……一二三のことだけど。しばらくうちで匿えるか?」
「大丈夫だよ。家も職場もバレてる以上、女性恐怖症の一二三を1人にさせるほうが危ない」
「良かった……俺、明日退院付き添って、うちに連れてくるから」
「それはいいんだけど、独歩仕事大丈夫なの?」
「今は繁忙期じゃないから……明日特に急ぎの仕事もないし、午前休使う……」
「そっか」

全休じゃなくて午前休、というのが独歩らしい。

解決するまで3人でルームシェア、か。独歩と2人で結構長い期間暮らしている今の家だが、3人で過ごすとなるとそこそこ手狭になる。一二三は昼夜逆転生活、独歩は帰りが遅くて、私は私で朝出るのが早いし、 そんなに気にならないかもしれないけど。
解決するまでとはいえ……ストーカーとかって一二三の職業柄避けられないような。今回のが終わっても、次の人が現れないとは言いきれない……。

「……3人だと、うち狭いな」
「2人暮らし用ではないから、そんなに広いわけじゃないしね」
「一二三だって、きっとこういう、ストーカーとか……初めてじゃないだろ。警察沙汰になったのが初めてなだけで」
「まぁシンジュクNo.1ホスト伊弉冉一二三様ですから。私達に言ってないだけでストーカーがついたことはあるだろうね」
「……那由多、その……提案があるんだが」

あぁ、きっとまるっきり同じこと考えてる。

「広いところに引っ越して、一二三も一緒に3人で住む……って、ダメか?」


転機

(「一二三がいいって言えば、だけど……」)
(「私は構わないよ。同じこと考えてたし」)
(「本当か……!?」)
(「ま、一二三は簡単に頷かないと思うけどね」)