目が、覚める。隣に居る独歩はまだ夢の中。
時計を確認するとセットしたアラームより五分前。
「(今日からヨコハマ勤務、か。)」
不安が無いわけではない。シンジュクでしていた業務とはまるで違う部署だし。
それでも。
「(上司が銃兎なら平気な気がしてくるんだよな)」
たかが半年の付き合いでしかないが、彼のことは知ってるし。問題はシンジュクにいる時から聞いていた彼の噂だった。良い噂は若くして優秀、この女尊男卑の世の中で大卒ノンキャリアから巡査部長になった男。彼に憧れる新人警官も多いと聞くし、あの見た目だ。女性も放っておかないだろう。
「(悪い噂は、汚職警官……か。組織犯罪対策部なら暴力団との繋がりもあって当然だし、本当だったとしても銃兎の事だからそつなくこなしちゃって表沙汰にはならなそうだけど)」
それでも流れてる噂。
「(銃兎を妬んだ人が流した悪評か、本当にやってるか)」
警察学校で関わった彼はそんな悪事に手を染めそうには見えなかったんだけど。
あと一分で鳴るアラームを解除して、まだ夢の中にいる独歩を起こさないようにベットを離れる。
「(考えても仕方ないし、今日会えば分かるでしょ)」
まずは、朝食の準備から、かな。
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「じゃ、行ってきます」
「気を付けてな」
朝食が出来たところで起きてきた独歩。2人で朝食を摂り、私の方が少しだけ先に家を出る。
「上司、変な奴じゃなきゃいいな」
「……あれ?言ってなかったっけ。新しい上司、警察学校の同期だから知ってる奴だよ」
自分の上司でずっと苦労してる独歩だから出た言葉だろうが、そういえば上司の話はしてなかった。
「……は?警察学校の同期が那由多より出世してて、那由多のこと引き抜いてヨコハマに連れてったのか?」
「そ。私は出世に興味なかったけど、この女尊男卑の世の中でよく巡査部長まで昇進したな、とは思うよ」
「同期って男なのかよ!?」
……独歩のこの焦りようで、その同期に昔告白されたことがある、なんて言ったらこいつ発狂するんだろうなぁ……と、どことなく他人事で思った。他人事じゃないんだけど。
だとしてもそろそろ家を出なきゃまずい。
「独歩、この話後でね」
「わ、わかった。那由多、」
「何?もう行くけど……」
「本当に気を付けろよ」
「わかってるって」
隠し事をひとつ
「(ヨコハマ着いたら駅まで迎えに来るらしいとか言ったらさらにやばそう)」
「(那由多の同期、仕事が出来て出世してるような奴が別のディビジョンに居た那由多をわざわざ引き抜くって、どういう意味だよ……)」