02

結局。
天井付近の窓から水が流れ込み、地下室は水没。満足な排水も出来なくて、膝程度まで浸水してしまっていた。自分の荷物ももちろん残念な姿に。元から荷物を沢山持ってる訳では無いのが不幸中の幸いか。助かったのは壁にかけてたコートと銃と剣。それ以外は処分しても構わないものばかりだし。
無事だった荷物を片手に宿屋を出る。

「さて、これからどうしようか」

女将さんに買い出しは届けたが、そもそも今日は営業どころではないだろう。
宿屋の大将もお手上げの様子で、片付けを手伝おうとしたものの片付けは力仕事だから、と追い出されてしまったし。

「……どいつもこいつも、心配しすぎだと思うんだよなぁ……」

宿屋の前で1人ぼやきながら空を仰ぐ。太陽が傾き始めたとはいえまだまだ明るい。
ユーリを追うか。いや、今から追うにしても時間が経ちすぎた。貴族街という方向だけじゃ場所も検討がつかない。
どうしたものか、ね。

「ワン!」
「……ラピード?何その袋」

ユーリと共に貴族街へ行ったはずの彼の相棒、ラピード。
咥えて持ってきたのであろう灰色の大きな袋を自分の足元に置いた。
多分、開けろということなんだろうな。

「これ、水道魔導器の修理費工面で売ったものじゃ……」
「ワンワン!」

これは取り返せたけど魔核はまだ、ってこと?
ユーリよりラピードが先に帰ってきた理由は?

「とりあえずこれはユーリが帰ってくるまでラピードが持っててね」

ラピードがひと鳴きして再び袋を咥えてユーリの部屋へと消えていった。
ユーリが向かったのは貴族街の方。
そこで何か騎士団と揉めて、ラピードだけ先に逃した……が1番あり得るかな。
ルブランさんとかなら何があったか知ってるだろうし、聞きに行くだけ行ってみよう。

コートを羽織って、ベルトに武器を収める。
さぁて、またあの坂道登りますか。


□□□


市民街でお目当ての人物が通るまで歩き回るのもなんだし、道端のベンチに座って道行く人を眺める。
騎士団の顔見知りか、ユーリ本人を探して。

しばらくのんびり人を眺めていたが、やっと目当てのうちの一人を見つけて声をかけた。

「ルブランさん」
「ん?なんだシークじゃないか。さっき、お前さんの相棒がまた悪さしてたぞ」

帝国騎士団シュヴァーン隊所属のルブラン小隊長。こっちが何も聞かずとも1番聞きたいことを教えてくれた。いやありがたいけど、いいのか騎士団。情報漏洩とか。

「あいつは別に私の相棒じゃ……今度は何をしでかしたんです?」
「貴族街の空き家に不法侵入、さらに窃盗の容疑で逮捕だ」
「空き家に?あいつも馬鹿じゃないですし空き家に盗みに入るなんてことは流石にしないと思いますが」
「帝都の治安を乱すような奴の考えてることなんざ、我々には分かるまいよ。ただ、空き家から出てきた所を現行犯逮捕だったそうだ」
「現行犯……取り押さえたのは?」
「アデコールとボッコスが発見したそうだが、手柄はキュモール隊に持っていかれたよ。全くあの二人は……」

自分の部下への愚痴をブツブツと呟くルブランさん。
それにしても空き家に、か。ラピードが持ってた袋といい、なんだかきな臭くなってきたな。

「まぁその程度なら10日くらいで釈放でしょうか」
「だろうな。出てきたらお前さんからもキツく言っておけ。これ以上帝都の治安を乱すような真似はするな、とな」
「私から言って聞く奴でもないですがね……一応伝えてはおきます、ルブラン小隊長殿」
「そういう呼び方はやめておけ。今はもうお前の上司ではないんだからな」
「はは……もう騎士団辞めて、1年になりますか」
「……もうそんなに経つんだな」

そう、1年。
1年前まで、私は騎士団にいた。
思考を振り払うように言葉を紡ぐ。

「ルブランさんにひとつ聞きたいんですが」
「なんだ?私に答えられることなら構わんぞ」
「モルディオという名の貴族の魔導士に心当たりは?」

ラピードが持って来た袋の中身。あれは明らかに水道魔導器を直すために下町のみんなでお金に換えるため工面した物。
ユーリが水道魔導器の魔核を探してモルディオを追いかけた。そして今、空き家への不法侵入で捕まった。
ならば、モルディオは―――

「いや、私も全ての貴族の名前を把握しているわけではないが……貴族が魔導師、というだけでも聞いたことがない」
「……でしょうね」

貴族の門弟が多い騎士団だが、シュヴァーン隊は平民出身者で構成されているため、貴族との関わりが薄い。
だからルブランさんの言葉だけでキッパリ断言は出来ないが、恐らくモルディオという名も貴族という肩書きも全て偽りだったのだろう。全ては下町の住民に怪しまれず水道魔導器の魔核へと近付くために。貴族と魔導師、2つのご立派な肩書きを名乗られてわざわざ疑いはしない。

「何かあったのか」
「下町の水柱、見なかったんです?下町で水道魔導器の魔核が無くなったんですよ。最後に触ったのはモルディオという名の貴族の魔導士らしくて、その人を探しにユーリは貴族街まで」
「ふん、どうせ食うのに困った住民の誰かが……」

「それ以上言うと怒りますよ、ルブランさん」

「い、いやスマン。忘れてくれ。水道魔導器のことは上に伝えておく」
「本当にしっかりお願いしますよ。下町のことなんていつも後回しにされますけど……水道魔導器が止まると流石に生活に関わりますので」

昔の上司に軽く頭を下げて、市民街を離れる。
平民で構成された隊とは言っても、小隊長の口からああいう発言が出てくるようではまだまだ騎士団は変わっていかなきゃいけないんだろう。

「フレンの道も大変だな」

帝国を変えると意気込む昔馴染みを思い出す。
……私の道は何をするために、何処へいくんだろう。