2005年8月5日

「オマエらまだケンカしてんの?」
「べつに、ケンカじゃないもん」

いつだったか、4人で遊んでる途中でマイキーとエマが同じタイミングでいなくなった時があった。ドラケンがそうっと内緒話をするようにわたしたちのことを聞いてきた。周りから見れば、それなりに仲がよかったわたしたちが全然話さなくなったのを見るとケンカ中か、思春期とか、反抗期とか、そういった理由で離れているのだと思われている。
わたしたちの不仲の理由をよく知るドラケンからすればケンカが一番近い言葉のようだけど、実際はわたしが一方的に怒っていて、ううん、最初っから怒ってなんかない。そんな気持ちを通り越して、悲しくて、つらくて。この気持ちをなんて呼ぶのかわたしには分からない。でも、"あの日"からそれなりに時間は経っているし、そもそもふたりが許してくれてるのにわたし一人受け入れないのも変な話なのだ。だけど、

「どうやって話したらいいか、わかんなくなっちゃったんだよ…」
「そっか。……まだ難しいかもしれねーけど、ベルの気持ちが落ち着いたらさ、話せるようになるといいな」
「……うん」

わたしだって、ずっと話さないままは嫌だ。でも、ほんとに話し方を忘れてしまった。なんて声をかけていいか、わからないのだ。戻ってきたマイキーとエマの顔を見て、無性に泣けてきた。ふたりとも、特にマイキーは同じ男の子だからか、ふとしたときの表情が真一郎くんによく似ている。

「ケンチンなにベルのこと泣かしてんの?」
「げっ…ゴメンゴメン!」

ヤなこと言って悪かった!
って慌てて謝ってくれるドラケンをマイキーは今にも蹴り飛ばしそうだった。ドラケンはわたしたちを心配してくれてるだけで、何も悪くないのに。

「ごめ、……ごめんなさっ…」
「へ?なんでベルは謝ってんの?」

マイキーの蹴りを止めたい気持ちもあったけど、誰かに縋って泣きたい気持ちが大きくて、マイキーに抱きついた。
ごめんなさい。真一郎くんのこと、ごめんなさい。
ぼそぼそやっとのことで告げた謝罪にマイキーは一瞬強張ったけど、すぐに「なんでベルが謝んの」って言って抱きしめ返してくれた。バジのことは許したんだよ、って。聞いたことないくらいやさしい声だった。

*****

わんわん泣くエマと手を繋ぎながら昔のことを思い出していた。
ドラケンはあの時以来ふたりっきりになることがあればわたしの不安な気持ちを、ほんとは圭介と昔みたいに話したいって気持ちを聞いてくれていた。圭介は留年しちゃってから学校こそ真面目に行ってるけど、夜は東卍の集まりとかでいないから、結局話すタイミングは全くといっていいほどない。だいたいどうやって話したらいいか相変わらずわかんないままだ。それでも、わたしが圭介と話せるようになったら、マイキーとエマと3人一緒に側で見守ってくれる、って言ってたじゃん。うそつき。

昨日からエマは泣きっぱなしだ。わたしだって涙は止まらないけど、エマほどじゃない。そんなに泣いたら干からびちゃうよ、エマ。圭介も、ミツヤくんも、他の知らない東卍の男の子たちも、みんな揃いも揃って泣いているのに、マイキーは一人だけ泣いてなかった。ほとんど無表情で、納棺されたドラケンを見つめている。
思えば、マイキーはエマとドラケンがデートしてることを見抜いてた。きっとわたしたちが仲直りの作戦を考えてたことも知ってて、誰かに呼び出されることがなければそれに乗ってくれるつもりだったのかもしれない。そんなもしもの話はしたってしょうがないけど、あったかもしれない幸せを夢みたかった。

(20210817)
(20210918)


High Five!