2005年8月3日

何着か浴衣は持ってるけど、つい3年生の時に真一郎くんがくれた浴衣を手にとってしまった。淡いピンク地で金魚が泳いでいる柄。中学生になったのに子どもっぽいかもしれないけれど、エマとふたり真一郎くんに連れてってもらった武蔵祭りが忘れられなかった。去年はまだお祭りにも花火大会にも行く気分になれなくて2年振りにこの浴衣を着た。今年はギリギリ大丈夫そうだけど、もう少し身長が伸びると丈が足りなくなりそうだ。実際に同じ頃に買ってもらったエマはその時の浴衣の丈が足りないらしくて、新しく見る紺色地にお花柄の大人っぽい浴衣だった。エマは6年生の時に成長期がきて10センチくらい身長が伸びたのに、わたしの伸び具合は緩やかなままでちょっぴり悔しい。
今日はお母さんの仕事がお休みだったから、お母さんに甘えてエマと一緒に着付けてもらった。それからお互いの髪の毛をセットしあってメイクをする。ああでもない、こうでもない、って浴衣の色に合わせてここのところ毎日メイクを試行錯誤してたから、1才しか違わないはずなのにエマは高校生くらいに見えた。お母さんに姉妹みたいって言われるまま写真を撮ってもらって、エマと合流場所を確認する。最初はバラバラにお祭りを回って、1時間くらいしたら裏の広い駐車場で待ち合わせ。毎年あの辺りはあまり屋台も出ないから話し合いにも、万が一ケンカに発展しても他の人の迷惑にはあまりならないはずだ。横で話を聞いてたお母さんが「早く仲直りできるといいわね」って言うから胸がキュッと痛くなった。お母さんはマイキーとドラケンのことだけじゃなくて、わたしたち・・・・・のこともずっと心配している。

待ち合わせの時間が近づくと、ドラケンと神社の近くで待ち合わせてるエマとは途中で別れて佐野家に向かった。きっとギリギリまで自分の部屋でお昼寝でもしてるはずだ。次の角を曲がれば佐野家につくというところで電話がかかってきた。マイキーだ。電話に出て、「もう着くよ」って言い切るより前に「ごめん」って謝られた。

「ごめんってなにが?」
『祭り行けなくなった、から…ごめん』
「えっ?」

エンジンのかかる音がする。マイキーはどこかに行くらしい。お祭りじゃない、別のとこ。

『エマに混ぜてもらえよ。どうせアイツと行ってんだろ』
「ちょっ、マイキー?マイキーっ!?」

マイキーは自分の言いたいことを言うだけ言って、わたしが反論する間もなく電話を切ってしまった。マイキーのばか。お祭り、楽しみにしてたのに。
ムカムカしながら元来た道を戻る。マイキーの言う通りエマに言って混ぜてもらってもいいけど、せっかくのデートを邪魔するのは悪いし、何より気分が削がれてしまった。だいたいなんで急に行けないって言ってきたんだろ。マイキーだって楽しみにしてたじゃん。昨日だって屋台で何を食べるかあんなに話してたのに。「ベルはどうせ食べきれないから、食べたいの全部半分ずつ食べてやるよ」って言ってたじゃん。きっと、またケンカだ。はっきり言われたわけじゃないけどそう思った。なんで男の子ってケンカばっかりするんだろ。イライラする気持ちを落ち着けたくて深呼吸するつもりが大きなため息が出た。
もうちょっとしてからエマにメールしよう。マイキーにフラれちゃった、って。作戦失敗しちゃったから、巻き込んだミツヤくんにもごめんって謝らないと。
家に帰ってお母さんに話してると、虚しくて、悔しくて、自分たちのことも情けなくってわんわん泣いてしまった。
だから、エマから電話がかかってきたとき心臓が止まるかと思った。てっきり約束をすっぽかしたマイキーのことを怒ってくれると思ったのに。仲直りの作戦が失敗して次の新しい作戦を考えると思ってたのに。だから、そんなの誰も思わないよ、まさかドラケンが大怪我をして病院に運ばれるなんて。

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High Five!