2005年7月19日

圭介とお弁当箱を取り違えてしまって、渡すついでに千冬くんと3人で一緒にごはんを食べることになった。ふたりの話はケンカとかバイクとか東卍のことばっかりで、マイキーとドラケンが喋ってる様子と変わらない。何が楽しいのかよくわからないけど、エマとファッションのこと話してても興味持ってくれるのは身近にミツヤくんくらいしかいないから、誰でも好きなことくらいしか頭に入ってこないんだ。専ら聞き役だったけど、時々ねこちゃんとか動物の話になるときは興味を持てたからその時だけはふたりのお喋りに参加したし、今度3人で動物園に行く約束もした。
学校は行けるくらいに回復したけれど、いくつか入っていた揚げ物にしんどくなって、お弁当箱のフタにふたつ乗せてとっくに食べ終わってたふたりに「あげる」って言いながら差し出す。千冬くんはびっくりしたみたいで圭介がどう出るか見てたけど、「もう食えねえんだと。母ちゃんのカツうまいぞ」って言う圭介に千冬くんは「じゃあ、いただきます」って言いながら手をつけた。一連の流れが"待て"をするご主人とわんちゃんみたいでちょっぴりおかしかった。

「そういえば圭介たちはマイキーの新しい友だちにもう会った?」

ごはんもひと段落して、不意に気になったことを思い出したから聞いてみる。

「誰だそりゃ」
「俺も知らない」
「えっと、たけみっち?だったかな。なんかおもしろい子なんだって。たぶん今日の夜呼ぶんじゃないかな」
「オマエ今日来んの?」
「うん、マイキーがおいでって」
「ふぅん」

今までこうやって東卍の集会に呼ばれたことはなかったけど、こないだ圭介との仲直りが伝わったから遠慮がなくなったらしい。もしかしたら先週は全体の集会も隊長クラスだけの集会──というより、昔馴染みが駄弁るって感じだった──にも圭介にべったり引っ付いてたから、来る前提で教えてくれたのかもしれないけれど。

放課後になってふたり揃って教室まで迎えにきてくれた。ふたりのクラスの方が終礼が終わるのが早かったみたいで、まだ教室にいたクラスメイトの視線が集まってなんとなく居心地が悪かった。
真っ直ぐ家へ帰ると荷物を置いて、ケータイと財布をポケットにいれる。それからこないだ買ったねこちゃんのおやつを持って圭介と千冬くん家へ向かった。
噂のペケJちゃんは何度も会ってるらしい圭介には懐いてるみたいだけど、わたしにはちらっともしてくれない。

「人差し指をペケJの鼻のとこ持ってってつむぎちゃんの匂い覚えさせてあげて」
「こう?」
「そうそうそのまま」

じっと黙って様子を見てると、すりすり手首にすり寄ってくる。

「わっ…!」
「はは!気に入られたみたいだね」
「…ほんと?」
「あごの下らへん撫でてあげて」
「うん」

教えてもらうまま指先であごの下を撫でるといつの間にかゴロゴロ喉を鳴らしていた。かわいい…。ペケJちゃんごはんまでまだだからっておやつにドライフードを手から食べさせてもらった。めちゃくちゃかわいい。
そうやってしばらく遊んでると、エマから電話がかかってきた。聞いてほしいことがあるってことと、駅近くのカラオケの前で待ち合わせたいことを言うだけ言って切ってしまった。エマがこんな一方的な電話してくるなんて珍しい。

「エマから?なんて?」
「うーん、よくわかんないけど、話したいことあるんだって。わたし先行くね」
「あ?オレらも一緒に出るワ」
「まだ7時だよ?時間早いよね」
「女ふたりで居ると絡まれンぞ」
「そーそ。暗くなってくるし危ないよ」
「……じゃあ、一緒にいく」

ふたりはこう言ってくれてるし、意地を張るようなことでもないから甘えることにする。

*****

カラオケの前に着いたって連絡を入れるとお店からすぐにエマは出てきた。

「あれ、バジたちと来たの?」
「うん、一緒にいたから」

エマは「ベルに話すことあるから!」ってふたりに離れるように言う。どうせ集会がはじまったら男の子たちとは離れてしまうし、マイキーの妹であるエマは集会にくる女の子たちにも一目置かれてるから、ほとんどふたりっきりになるのに今どうしても話したいらしい。
みんなでクレープを買って武蔵神社近くの公園に寄り道する。わたしたちはベンチに座って、ちょっとずつ分けながら食べる。さっきあったことの内容は最初から雲行きが怪しいかんじだったけど、知らない男の子の前で服を脱いだって聞いて思わずエマに掴みかかってしまった。

「えっ!!?なにそれっ?!危ないよ!!」
「声大きいよ!」

パチンとエマに口を塞がれた。ちょっと離れたとこにバイクを停めて喋ってる圭介たちがこっちに来るそぶりをしたけど、エマとなんでもないと手を振る。

「えっと、………その、」

知らない男の子とキス以上のことをしちゃったのかな?エマはそのことで話したいからわたしのこと呼んだんだと思うけど、なんて言っていいかわかんなくてもごもごしてしまう。

「……その子には逃げられちゃった」
「そっか。よかった……」

エマは残念かもしれないけれど、知らない男の子と一足早く大人にならなくてよかった…。そういう話は全く知らないひとじゃなくて、エマの大好きなドラケンと進展したよって話で知りたい。

「でもなんでそんなこと…」
「早く大人になりたかったの」

食べ終わったクレープの包み紙を折って結びながら「前から考えてたんだよ」ってエマは言った。確かにエマが好きなドラケンはマイキーや他の東卍の男の子たちよりも大人っぽいし、お家はそういうお店・・・・・・だ。焦っちゃう気持ちはわかる。東卍の集まりに来る女の子たちはメンバーの誰かの彼女とかそれに近い存在で、経験ある子たちばっかりだ。わたしだっていつかはマイキーと、そういう経験できたらいいなって思うけど、最初は痛かったって言う子が多いし、未知の世界すぎて怖い。

「怖くなかったの?」
「うーん、なんか勢いで行っちゃったんだよね」
「そうなんだ…でも、エマになんにもなくってよかったぁ」
「……ありがと、ベル」

ぎゅってするとエマからもハグしてくれた。

時間になったからって圭介と千冬くんの後ろに乗せてもらって武蔵神社へ向かった。神社に着いたら他の女の子たちが集まる駐車場の端の方にいく。明日の終業式が終わったらプリクラを撮って、そのまま遊びに行こうって話をしてると、エマがドラケンに呼ばれたから一緒についていく。噂のタケミっちが彼女さんを連れてきたから一緒にいてほしいらしい。

「あ」
「どしたの?」
「よっいくじなし君」
「えっ!!?」

語尾にハートマークが付きそうなくらい弾んだ声を出したエマにびっくりして、噂のタケミっちを見る。金髪に染めてるけど、他の東卍メンバーと違ってどこか頼りない印象を受ける。何があったかさらっとエマが伝えると、彼女さんは怒ってタケミっちをボコボコにしに行った。

「ね、今ドラケンすごい顔してたよ。見た?」
「うそ、どんな顔?」
「こんなの」

指先で目をつり上げてできるだけドラケンの怖い顔を真似する。エマには笑われてしまった。

「なにそれ、ケンちゃんの真似?」
「うん。きっとあの男の子のことで嫉妬してくれたんだよ」
「そうかな?…そうだといいな!」

マイキーが最近お気に入りのタケミっち。わたしはエマのことがあるからあんまり印象よくないけど、どんなこなんだろ。

(20211022)

タイトルの日付は捏造です。


High Five!