大ゲンカ

こないだの集会の次の日には終業式ですぐに夏休みに入ったけど、どこかに出かけるってなると暗くなる時間には絶対東卍の誰かが一緒だった。なんでもただの不良同士のケンカじゃなくて不良チーム以外の───その家族とか彼女とか───にも平気でケガをさせちゃうような質の悪いひとたちを相手にしているらしい。いいのか悪いのか、わたしの遊び相手はエマか東卍の誰かくらいしかいないから、外に出る時は誰かがつきっきりだった。今までだってエマと遊ぶ時にマイキーとドラケンはしょっちゅう一緒だったし、たまにミツヤくんとかパーちんがいることも少なくなかったからこれまでと何か変わった気はあんまりしない。こないだだって終業式のあとにエマとそのまま遊びに行ったけど、気がついたらマイキーとドラケンが合流していたし、帰りはマイキーが送ってくれた。おまけに家の前では圭介が千冬くんと一緒に待っててくれたくらいだ。とにかくそれくらいヤバいひとたち、らしい。

もうすぐ武蔵祭りだね、って話になってエマと買い物にきていると、エマのケータイにドラケンから電話がかかってきた。またマイキーが何かワガママでも言ってるのかな。今の時間だと夜ごはんのこととか?電話が終わるのを少し離れたところで待つ。

「ベルも一緒にきて」
「ドラケンに呼ばれたの?」
「呼ばれたっていうか、代わりにきてくれって」
「なにそれ?」
「よく分かんないけどパトカーの音聞こえたし、ケンちゃん慌ててたから急ご」
「うん、わかった」

圭介に連絡いれた方がいいかな?それとも圭介もドラケンたちと一緒にいるのかな?落ち着かない気持ちでエマと一緒に工場外れの住宅街に差しかかると、誰かが倒れているのが見えてきた。

「ねえ、誰か倒れてる……」
「さっきパトカーの音したって言ってたよね?誰か東卍のひと……?きゅ、救急車呼ぼっ」
「うん!……あっ、まってベルこの人タケミっちじゃない?」
「えっ?!」

タケミっちって最近マイキーと仲良くなったこだ。慌てて救急車を呼んで、来たら一緒に病院まで乗っていく。こんなの一人で対処なんてとてもじゃないけど出来なかった。お家の人の連絡先はわからなかったけど、財布や携帯電話を検分して病院の方からしてくれるらしい。
病院の人に後を任せて病院を出る頃には日もすっかり落ちかけていた。今日はエマも一緒だけど、夜一人で出歩くなって最近はいろんな人から耳にタコができるくらい言われているから圭介を呼ぼうとケータイを出すと、圭介の方から「ドコの病院?」って短いメールがきていた。マイキーたちと情報共有されてるらしい。連絡を入れてからそんなに待たずに圭介はやってきた。バイクを飛ばしてきてくれたらしい。さすがに3人でバイクは乗れないから、わたしたちの後ろを押してついてくる。エマといつもみたいにおしゃべりする気になれなかったから、黙ったまんま佐野家に向かおうとすると、「武蔵神社行くぞ」って圭介に言われた。きっとマイキーたちが呼んでるんだろう。
武蔵神社に着くと所謂幹部クラスの人たちだけが集まっていた。エマと一緒に少し離れたところで待っている間に圭介と一緒にいて帰りが遅くなりそうなことをお母さんにメールしておく。電話のかんじと違って、マイキーもドラケンも目立った大きなケガはなさそうだ。それに安心してエマと昼間うやむやになっていたお祭りの話をする。
いつだったか真一郎くんがエマと一緒にくれた浴衣の丈をこないだ見たら、今年はまだ大丈夫でももう少し身長が伸びると着れなさそうだった。エマも着れないことはないけど、子どもっぽい柄だから買い替えたいらしい。新しく浴衣を買いに行こうって話になって、いつにしようか相談していると、男の子たちが騒がしくなった。びっくりして見てみると、マイキーとドラケンが言い争いをしている。

「今パーが捕まったって言った…?」
「言った、かも……」

エマとふたり顔を見合わせる。ふたりのケンカはさっきよりもヒートアップしていて、お互いに怒鳴り合っているし、今にも殴り合いでもしそうなのを他の子たちで抑えていた。エマと慌ててふたりの間に入ればどちらともなく大きな舌打ちをした。

「ケンチンなんてもう知らねー!エマ帰んぞ!」
「ちょっとマイキー!?」

どかどか足音を立てて歩くマイキーは慌てて追いかけていく。ドラケンはもう一度舌打ちをして、抑えてたミツヤくんの手を払った。

「なんでふたりはケンカしてるの?」
「アァ?」

ドラケンはまだ怒ったままらしい。問いかけたわたしに凄んできて思わず肩が跳ねた。ミツヤくんがドラケンの横腹をグーで叩くと「ワリぃ」とちょっと罰が悪そうな顔をする。

「アイツがパーの気持ち踏みにじるようなことするからだよ」

マイキーがパーちんの気持ちを踏みにじるって、どういう意味なのか、わたしにはさっぱりわからなかった。

(20211215)


High Five!