約束

ベル、シンイチローのやつ告白して20回連続でフラれたんだぜ。
おもしろがって言うマイキーの言葉がわたしは不思議だった。だってわたしにとってはかっこいいお兄ちゃんだから。きっと、おもしろがって言うマイキーにとってもそうだ。マイキーは真一郎くんのマネをしているところがたくさんあるもん。

「真一郎くんまたフラれたの?」
「げっ、つむぎにもバレたか…」

真一郎くんはそう言ってちょっと困った顔で微笑った。たぶん本とかで見る苦笑いってやつだ。
真一郎くんは不思議なひとだとおもう。やさしいのに中学生か高校生のときに不良のチームを作った。おまけにケンカは弱いのにそのチームで一番えらい人だった。高校を卒業したら不良のチームも一緒に卒業して、自分のバイク屋さんを持って毎日楽しそうにバイクいじりをしている。お店に遊びにいくと小さいときみたいにバイクに跨がらせてくれたり、武臣くんとかがお店にいるときやお店がお休みの日は後ろに乗せて外を走ってくれたりもする。お店に出入りする怖い人たちもいるけど、その人たちはだいたい真一郎くんの昔のチームの人たちで、見かけと違って礼儀正しいしやさしくしてくれる。真一郎くんはたくさんの人から好かれていて、いつだって周りにいる人はみんな笑顔だ。圭介とマイキーだってそう。ふたりとも真一郎くんのマネをして、毎日のようにケンカばっかりしている。圭介とマイキーがそれぞれ新しいやんちゃ友だちができて、前ほどふたり揃って真一郎くんのお店に来ることはなくなったみたいだけど、お店に来てはあれがいい、これに乗りたいなんて話しているらしい。
とにかく真一郎くんはみんなの憧れでこんなにかっこいいのに、告白された人はなんで真一郎くんをフったりしたんだろう。他にすきな人でもいたのかな。

「その人見る目ないんだね、真一郎くんこんなにやさしくてかっこいいのに」
「つむぎ〜おまえだけだぞ、そんなやさしいこと言ってくれんの〜」
「く、くるしい!真一郎くん苦しいよーっ」

ちょっと前に見ていたドラマで言ってたセリフをマネして言ってみた。真一郎くんは目をまん丸にしてからわたしをぎゅっと抱きしめて、そのまま髪の毛がぐしゃぐしゃになるくらい頭を撫でてくれた。小さいこにするみたいで少し恥ずかしいし、力いっぱい抱きしめられたから苦しかった。

「つむぎとつき合ったり、結婚したりできる万次郎は幸せだな」
「えっ!!なっ、なんでマイキーっ?!」

マイキーのことがすきだって、だれにも言ったことないのに!なのに、なんで真一郎くんはそのことを知ってるみたいな言い方するのっ?!

「おまえのことは何でもわかるよ。オレだってつむぎの兄ちゃんだからな」

真一郎くんはやさしく微笑って言った。

「………マイキーはわたしのこと、なんとも思ってないよ」

むしろしょっちゅう真一郎くんのお店に来るから真一郎くんのことすきだと思ってそう。小さい時は真一郎くんのことが一番にすきだったから余計にそう思ってそう…。
そう言うわたしの髪の毛を整えながら真一郎くんはにこにこしている。

「つむぎ、男は女の子よりずっと子どもなんだ。万次郎はまだつむぎのことが女の子として気づいてないだけだから、もうちょっと待ってやってよ」
「ほんと?もしマイキーにフラれたら慰めてくれる?」

わたしの不安な気持ちを知りもしないで、真一郎くんはおかしそうに笑った。「そんなことにはならないよ」だって。

「万次郎のこと、よろしくな」

真一郎くんはやっぱりやさしく微笑った。

(20210724)
(20210918)


High Five!