黒トリガー争奪戦3

「太刀川さん久しぶり。みんなお揃いでどちらまで?」

愛真は久しぶりに聞く迅の声に"玉狛と敵対"という言葉が頭を過り、「嫌な予感ってこっちだ……」と項垂れた。話せば愛真の立場を分かってくれる迅はともかく、愛真が大好きな小南はその辺りの点が辛い。子どもの頃からの親友である小南との仲がこじれるのは嫌だった。迅の後ろに目を凝らしても他の玉狛メンバーは見当たらないが、もしかしたらまだ来ていないだけで玉狛支部やその近くで待機している可能性もある。とはいえ現状は多対一であり、戦闘になるとすればヒーローにあるまじき行為。だけど愛真も任務で来ている手前、迅に着くのも組織としてよくない。

迅くんと当真くんが話してる間に帰ろ。

そう思って少しずつ後ろに下がる。黙って任務を放棄するのもよくないが、迅側の戦力になるよりかはマシだと判断した。バレたら城戸司令に間違いなく怒られるし、真木にも怒られるか呆れられるに違いないけれど、自分の正義を貫いた。

「余計なことを喋るな当真。…愛真も帰ろうとするな」

あっさりと風間に見抜かれて戦線離脱は叶わなかった。おまけに「冬島隊どうなってんの?」と菊地原に白い目で見られた。

「当真くんも愛真も自由にさしてもらってます」
「威張ることじゃないじゃん」
「きくっちゃんだってわりと自由にしてるじゃん」
「は?一緒にしないでくれる?」
「二人ともそれくらいで、な?」

菊地原と小競り合いに発展しそうになったところで歌川に諫められた。愛真だってさすがに作戦中に内輪揉めを起こすつもりはないけれど、もともと乗り気ではない作戦であり玉狛と敵対する可能性が濃厚になった今、更にやる気をなくしていた。迅が止めにきたからといって城戸司令からの任務がなくなるわけではないが、迅も一人なのに引く様子はない。迅が強いとはいえ黒トリガー風刃を使っても遠征部隊と三輪隊の4部隊を相手にするのは分が悪いはずだ。そう風間が指摘をすると迅だって"いいとこ五分だろ"と認めている。

やっぱ迅くんにつこっかな。
だってやっぱり多対一ってヒーローらしくない。迅くんだって大切な仲間だ。

愛真がそう思いはじめていると、「"おれ一人だったら"の 話だけど」と迅は意味深なことを言う。愛真のことを言っているのか、とでも言うような視線がいくつも向けられた。確かに迅につこうか考えつついるが、まだかろうじてこちら側だ。とはいえ、このまま迅との戦闘が始まるようであれば迅側に着く方向で気持ちは固まりつつある。人の裏をかくような行為はしたくない。本当にこの作戦を放棄して迅側につくなら宣言してからだ。なんとなく居心地が悪くてつま先を見つめていると、頭上で足音がした。

「嵐山隊現着した。忍田本部長の命により玉狛支部に加勢する!」
「はい!忍田本部長の命なら愛真も玉狛支部に加勢します!!」

嵐山隊の到着に愛真は手を挙げて主張した。実際は嵐山隊への指令であり、冬島隊として愛真は城戸から命令されてきていたけれど、子どもの頃から懐いているだけあって忍田の方が優先度が高かった。

「いやお前一応城戸司令派だろ」
「当真くんはそうかもしれないけど、愛真は入隊したときから忍田本部長派……って理佐ちゃん?!まって!!愛真の通信切られた??」

ゾワっと嫌な予感がして通信を試みたけれど隊室の真木の反応はないし、試しにレーダーを立ち上げてみると、普段ならチームで共有されるマーカーの反応も残念ながらない。

「ハハ、どんまい」
「う〜〜…理佐ちゃん怒った〜…」

作戦チームにいないとなると仕方ないこととはいえ愛真は項垂れた。当真に構われながらこの作戦を率いる太刀川の判断を待つ。彼が作戦を強行すると言えば、敵に囲まれた状態の愛真は真っ先に狙われるだろう。

でも、慶くんなら強行するな。

そう思っていると太刀川が"迅の予知を覆したい"なんて言いながら弧月に手をかけるのを見た。それを合図に両陣営が戦闘体勢にはいる。愛真は辺りに弾を撃ち放ちながらその場から離脱した。

「あー…思ったより当たってないかも。慶くんに割きすぎたな」

キューブを細かく分割し、敵陣営全員にそれなりの数を当たるように弾道を引いたつもりだったけれど、戦闘開始前から敵側につくと堂々と宣言していた愛真の動きは読まれておりシールドでかなりの数を防がれた。とはいえ、ほんの数分前まではただの喧嘩文句だった"蜂の巣にする"という太刀川への宣言は、一部防がれたものの部分的に達成できたからひとまず溜飲は下がった。だめ押しで今度はスタアメーカーをシールドに切り替えて弾道をひく。メインでセットしているのはバイパーだから爆発力には欠けるけれど、愛真は細かく分断したキューブを何通りもの弾道設定をするため致命傷にはならなくともトリオンを削るくらいの働きはするはずだ。嫌な感じはしないから後々利いてきそうだと安心して、迅たちの元へ移動した。

(20200130)
(20220306)


High Five!