黒トリガー争奪戦4「ありがとね愛真、こっちきてくれて」
「いいの、いいの。玉狛出入りしてる人の黒トリガー取りに行くって聞いたときからイヤだって思ってたから。むしろすぐに迅くんの味方しなくてごめんなさい」
「それこそ気にしないでよ」
ぽんぽん、と頭を軽く叩かれるのをされるがままにする。
「……次はこっちを分断しに来そうだな。その場合はどうする?」
「別に問題ないよ。何人か嵐山たちに担当してもらうだけでもかなり楽になる。愛真はこっち手伝ってもらおうと思うけど
射手のセット?」
「うん。でも、ほぼサポートメインだよ」
「オッケー。作戦はまた後で伝える」
「愛真りょーかい」
二手に分かれることが無事に決まり、これからの戦況を予想する。レーダーで相手方の動きを確認するとまだ向こうも固まっているようだが、
狙撃手陣3人分の反応がないから、せっかく撃ったスタアメーカーは削られたらしい。この辺りは予想の範疇だ。
迅側に風間隊、太刀川、
狙撃手が、嵐山隊側に三輪と米屋が向かうと結論づける。相手が分断を狙ってくるのを逆手に取り、こちら側に誘い込むという木虎の案に収まった。
「おっ来たな。うまいことやれよ、嵐山」
「そっちもな、迅。愛真も気をつけてな」
「ありがと〜」
「愛真に作戦というか、ちょっとお願いがあるんだけど──…」
二手に分かれてすぐ迅からあった申し出に耳を傾けると、いくつかの未来の可能性とそれに合わせたプランを伝えられた。第一の作戦を把握したところで愛真はふと思い立って、嵐山たちに向かって「当真くん途中から准くんたちの方行くと思うし、狙撃気をつけてね〜」と内部通信を通して呼びかけた。
「当真のそれは愛真の勘?」
「ううん。当真くん当たらないって思ったら弾が無駄って言っていっこも撃たないから」
「なるほどね」
迅が誘い込んだエリアは住宅街で射線が通りにくい地形だ。仮に通ったとしても未来予知のサイドエフェクトで躱されてしまうだろう。愛真も同様で、戦闘中は生存本能がはたらくのか、普段生活しているよりも格段に勘がよくはたらくから、よほど避けきれない集中攻撃や爆撃でもない限り弾はそうそう当たらない。現に先ほどから何度も撃たれた弾は避けるかシールドで防いでいる。
迅から指示された内容は"太刀川たちのトリオン切れによる撤退"だった。そのため、迅も愛真も致命傷は与えることなく、少しずつトリオンを削る程度の攻撃を繰り返していた。ただ愛真に関しては先ほどの口喧嘩が尾を引いていて、迅に比べると心持ち太刀川への当たりがきつめだけれど。
ジリジリと警戒区域の外れ近くまでやってきたところで、迅の思惑は暴かれた。愛真は年長者たちがどういう判断をするのか大人しく待つ。
「風間さん、やっぱりこの人は無視して玉狛に直行しましょうよ。ぼくらの
目標は玉狛の黒トリガー。この人を追い回したって時間のムダだ」
「……たしかにこのまま戦っても埒が明かないな。玉狛に向かおう」
「……やれやれ……やっぱこうなるか」
「きくっちゃんもせっかちだね」
これまでずっと風刃を使っていなかった迅だが、太刀川たちが玉狛支部に向かう動きを見せれば風刃を使うと聞かされていた。またその未来は高確率で定まるとも。あまり近くにいると戦闘の邪魔になるので、愛真はグラスホッパーを使って離れる。愛真が飛び出したことで様子見をしていたらしい
狙撃手の弾をシールドで防ぐ。ほぼ同時に迅は風刃を起動し、菊地原の首を飛ばしていた。追撃として残りの3人に向けてバイパーを放つ。
「……迅くんもたいがいだ」
迅が首を切るような乱暴な攻撃を仕掛けるなんて珍しい。玉狛を出入りする
近界民がよほど気に入っているんだろうか。愛真はまだ見ぬ
近界民に興味が湧いてきた。
主に迅を狙ったものだが狙撃も再開された。グラスホッパーと建物の影を駆使して、勘を働かせて狙撃元のひとつへ向かう。戦況が動き出した今、バッグワームをセットしていない愛真としては素早く距離を詰めて1人でも早く落としたい。
「あ、古寺くんみーっけ!」
「げっ…!?」
至近距離で攻撃されれば、
狙撃手の反撃手段はない。声をかけるのと同時にフルアタックをしかけ仕留める。
「次は奈良坂先輩かな。他にも誰か飛んでったっぽいけど…」
ひとまず射線が通らなさそうな建物の影に入りレーダーを見る。こういう時、オペレーターがいないとすぐに戦況確認ができないから不便だ。今回に限っては愛真の自業自得であるのだけれど。
「んー、迅くんらへんは三人で、准くんたちは
2対2か」
レーダーに映ってないだけで当真と佐鳥がいる可能性もあるが、よくわからないので頭数には入れないでおく。迅の援護に戻るためにも、奈良坂の狙撃位置を把握するためにも迅のいる方角に向かって移動する。
「あれっ」
走っている途中で向かっている方角から2人分の
戦闘脱出を確認した。どうやら迅が勝ったらしい。せっかくだし一言声をかけようとそのまま迅の元へ向かう。
「迅くんお疲れさま〜」
「お疲れさん。助かったよ、愛真」
「ほとんど何もしてないけどね〜」
へらっと迅に微笑いかけて、これからのことを思って少し憂鬱に思う。
「あー…戻ったら理佐ちゃんに怒られるなあ……」
「んー、案外大丈夫そうかもよ」
「ほんと?」
先ほどまで戦闘中だったからそちらの勘は鋭くなっているけれど、怒られることにびびり倒しているからか真木の機微にはいまいち勘がはたらかない。でも、迅が言うならそうなんだろう。表情を明るくさせると内部通信で名前を呼ばれた。
「えっ理佐ちゃん??」
<<わかってると思うけど、こちらの作戦は終了したわ。帰ってらっしゃい>>
帰還命令だった。「愛真りょーかい」と返して、迅を見上げる。
「ほんとに大丈夫そう!帰るね!」
「気をつけて」
「ありがとー、迅くんも気をつけてね」
ばいばい、と手を振って
緊急脱出した。
(20200225)
(20220306)
古寺くん、負かしてごめんね。
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High Five!