探さないかくれんぼ


雄英一大イベントである体育祭が終わった。火傷を負った私を一人にはしておけないという俊典さんの強い要望で、休みが明けるまで、私は俊典さんの自宅で過ごしていた。以前暮らしていた時の着替えや日用品などが残っていたため生活に支障は出ず、病院で処方された軟膏を塗る私を、俊典さんはおろおろと見守っていた。

あんなに慌てる俊典さんなんて、ここ数年見ていなかったのに、雄英に入学してから月一の頻度で見かけるようになってしまった。もっとしっかりしないとだめだ。


そして二日の休みが終わり、学校へと向かう道のり。私は電車ではなく俊典さんが運転する車の助手席に座っていた。

早めに登校するため家を出た私に、俊典さんは手の火傷が治っていないのに傘をさして登校するのは大変だから、と譲らなかった。傷口が雨に濡れてしまったら、とも言っていた。自分たちの関係を他の教師に隠す気があるのだろうか。

久しぶりの助手席に深く腰掛け、雨粒に叩かれる窓の外をみる。……正直言えばかなり助かっている。休みの間にリカバリーガールに顔の傷は治してもらったが、手の方はほとんど手付かずだ。軟膏を塗って冷やしても自然治癒までは程遠い。正直、物を掴むことさえ僅かな痛みが走るぐらいだった。今日のリカバリーでこの痛みが和らぐことを願おう。この休日の間は誰も見てないので“個性”を使いまくってなんとか生活は送れたが、外ではこうはいかない。

なにより、あの体育祭を終えたばかりだ。
これまで通りの静かな登校は出来ないだろう。

こつん、と額を窓にぶつける。顔のガーゼや包帯が取れたおかげで視界は良好だ。ただし、気分は下がる一方。

(ゼファーの子供を見た人たちは、どう思っただろう。)

体育祭、最終成績、二位。

決して悪くない結果を残せたと思うが、みんなはどう思ったかな。
顔も名前も知らない一般人ではない。私を昔から知っているヒーローや、警察、公安の人たちだ。私を鍛えてくれた人も、気にかけてくれた人も、きっと見ていた。
あの体育祭の映像で、私をゼファーの子供だと知ったヒーローだっている。どう思っただろう。政府の監視下に置かれて、ヒーローの庇護下にある子供。ああ、そういう理由だったのか、と納得しただろうか。もし、次会ったときに問いただされたらどうしよう。
ゼファーの死の真相は誰にも話さないと約束している。十年前の発表は民間人でも違和感を覚えるようなものだったのに、ヒーローが怪しまない筈がない。プロヒーロー相手に、誤魔化しきれるだろうか。

―――そういえば、エンデヴァーは一度も聞いてきたこと無かったな。真っ先に知りたがりそうなのに。

「―――……続きまして、先日発生したヒーロー襲撃事件について―――」

聞き流していたラジオの言葉に、車内がシンと静まり返る。外の湿度が体積を伴って落っこちてきたみたいだ。男の人の聞き取りやすい声がまっすぐ車内に通う。

保須市、インゲニウム、重傷、犯人は逃走中。
―――ヒーロー殺し、ステイン。

「……飯田少年、思い詰めていないといいんだが……」
「さあ、どうだろうね」
「私も声をかけてみるが……友人として、卯依にも飯田少年を気にかけてほしい。頼めるかい?」

俊典さんがルームミラー越しに私に視線を送る。私はしばらく閉口してから「分かった」と答えた。「ありがとう」という返事に今度こそ黙り込む。



―――気にかけるって、どうすればいいんだろう。


リカバリーを終え教室へ向かう途中で、廊下の奥から歩いてくる紅白頭が目にとまった。向こうも同じタイミングで気付いたようで、A組の教室の前で立ち止まる。

「……」
「……」

開けてくれないだろうかと扉に近い轟をじっと見たが、轟は扉ではなく私を見ていた。視線がぶつかったまま考える。この距離で轟を押しのけて扉を開けに行くのも変だろうと止まったままの私に、轟は考えを巡らせるように視線を落としていた。

「なーに睨み合ってんだよ! 予鈴鳴んぞ!」

轟の背後から元気よくやってきた切島が、手を伸ばして扉を開けてくれる。轟の前を通って、そのまま教室へと入った。教室の中は騒がしくて、かけられる挨拶に答えつつも廊下側の列の後ろへと視線を向ける。飯田の席は空席だった。

その後、飯田は予鈴直前に教室へ入ってきた。その後すぐに相澤先生が教室へ来たので、結局声をかけることはできなかった。けど、たとえ話す時間があったとしても、何を言えばいいか迷った挙句、黙りこんでいただろう。