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名前を呼ばれた気がした。

ひりひりする痛みが全身に広がる。なんだか周囲が騒がしくて瞼を持ち上げた。けれど視界は半分だけで、片方は何かに塞がれているように真っ暗だった。残った左目には白色がいっぱいに広がっているだけで、私は一度だけ瞬きをする。

「卯依」

白い視界に飛び込んできた眩しい金色に目を細める。
黄金色の中、青空のような色がふたつ、浮いている。

「……俊典さん」
「良かった……。体の調子はどうだい。頭を打っていたり、どこか違和感があったりしないか?」

矢継ぎ早に落ちてくる質問に言葉を探す。私、なにをしていたんだっけ。僅かに顔を動かすと体操服の青が見える。そうだ、体育祭の、決勝を……。

「試合、どうなったの」
「……優勝は爆豪少年だよ。卯依は爆風で場外へ出てしまったんだ」
「……そっか……」

俊典さんは寝たままの私の頭に手を静かに乗せた。ゆっくりと動いて頭を撫でていく。その触れ方が信じられないくらい優しくて、情けなくなる。

「……なんて無茶をするんだ」

その言葉に、痛みが止まない腕を持ち上げる。左目で確認すると、包帯でぐるぐるに巻かれていた。やっぱりサポートアイテムがないと、炎の操作は出来ないや。
自覚してたのに、爆豪の挑発に乗ってしまった。
感情のまま扱えもしない“個性”を使ってしまった。

「あんたが言えた言葉かね」

リカバリーガールの言葉に俊典さんが口ごもる。だけど、抑えきれなかったのか「傷が残っていたかもしれない」と表情を翳らせた。見るからに悲しそうな俊典さんの表情を見ていると、こっちまで辛くなってくる。

起き上がろうと肘をつくと、激痛が走った。思わず顔を歪めた私の背を支え、俊典さんが起こしてくれる。
立場が逆になってしまった。
いつも、私が支えて起こす側だったのに。

「……卯依?」

不安そうに見下ろす俊典さんの瞳をじっと見返す。言葉を探してから「お腹空いた」と呟くと、俊典さんは青い眼を丸めてから小さく笑ってくれた。


▲ ▽


会場の修繕や片付けが終わり、表彰式が始まった。壇上へ上がった三人、強制的に運ばれた一名へ視線が向けられる。

「何アレ……」
「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしまー、締まんねー一位だな」

一位の壇上に立つかっちゃんは拘束具で手を縛られ、口元にも喋らせないための器具がつけられていた。セメントの壁にベルトで巻きつけられたかっちゃんは暴れまくって鎖をぶつける音をたたき出している。唸り声をあげながら睨む先に居るのは二位の壇上にいる卯依ちゃんだ。

「実操、大丈夫なのかな」

耳郎さんの呟きが耳に届く。卯依ちゃんは隣で騒ぐかっちゃんに一切反応を示さずに壇上に立っていた。包帯で覆われているせいか、僅かに俯いているからか、その表情はよく見えない。かっちゃんは卯依ちゃんに文句があるのか、頭をこれでもかと振って拘束具を外そうと必死だ。

メダルを贈呈する役として現れたのはオールマイトで、三位の常闇くん、轟くん、とメダルを渡していく。卯依ちゃんの順番になり、オールマイトが正面に立つと、卯依ちゃんは僅かに顔を上げた。首にメダルをかけられ、ぽんぽんと背中を叩かれる卯依ちゃんの表情はいつもと同じように見えた。少なくとも、今は。

かっちゃんの口を塞いでいた器具をオールマイトが取り外す。かっちゃんは初めて見るレベルの恐ろしい表情をしていて、メダルは要らないと叫んでいた。凄い顔をしてる。首にかけられないように抵抗するも口にひっかける形で送られていた。

「さァ! 今回は彼らだった! しかし皆さん!」

メダル贈呈が終わり、オールマイトが振り返る。

「この場の誰にもここに立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと登っていくその姿!
―――次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」 

好敵手と書いて“とも”と読む。
なんか歯が浮く言葉だけど、実感せずにはいられない日だった。

体育祭が終わり、制服へと着替え終わったあと、教室へ戻る途中で卯依ちゃんに呼び止められる。卯依ちゃんの表情はこれまで見てきたものと相違ないものだった。その涼しげな顔が彼女にとっての素顔なのかどうか、今の僕には分からない。

「飯田の姿が見えないんだけど、なんかあったの?」

そして、僕らを取り巻く環境は、
ここから少しずつ変化を見せ始める。